教会にいる探偵
黒い猫
第一章
第1話
こんな事に巻き込まれるくらいなら地元で有名な中高一貫のお嬢様学校に通う友人の申し出を断らなければ良かった……と。
しかし、その友人はお嬢様学校に通っているだけあってお迎えが来るのは当たり前。その上、そのお迎えの車も高級車だ。
「……」
チラリと視線を向けた先には何もいないが、少し歩けばその後をつける音がする。
母子家庭で育ち、ローファーすら買えずに中学時代のスニーカーを愛用している彼女にとっては、正直に言って呼吸者に乗る事自体おこがましいとすら思う。
だが、こうなった今となっては「回り道になるから申し訳ないとか思わずに友人の言うとおりにすれば良かった」と再度後悔していた。
どうしてそこまで後悔していたのか。それは、彼女はストーカーに追われていていたからなのだ。
「うぅ」
如月は後ろの様子を気にしながら歩いていたが……どうにも誰かに付けられているような感覚がし、その上何やら「カサカサ」と言う音がするのだ。
「ここ、アスファルトの上なのに」
そう思うけど、後ろを振り返る勇気はない。そこで彼女は仕方なく迂回する道を選んで足早に歩いた――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「え、あの公園通って帰るの?」
「え、うん。なっ、何。どうかしたの?」
そう答えると、迎えの高級車を前に同じ塾に通っている友人が何か言いたそうな表情に、如月は不安になった。
「……」
「?」
如月はたまに時間短縮の為にあの公園を度々通っていていたが、友人は特に何も言わずに「そっか、それじゃあまた明日」と言う。
そんな友人が言いにくそうにしている辺り、きっとただ事ではないのだろう。
「なんかね。あの公園で『ストーカー被害』が多発しているから注意する様に今日学校の集会で言われたから」
「そっ、そうなんだ」
友人はそう言っているけど、如月はその話を聞いた初めてだった。
「だから、心配になって」
「だっ、大丈夫だよ! 私にそんなストーカーをする程の魅力なんてないし!」
「……自分で言っていて悲しくない?」
元気よく言った如月に、友人はそう問いかけたが……。
「え、全然?」
如月自身そう思っているため、キョトンとした表情で答える。
そもそも目の前にいる友人の様に他校の生徒から告白をされたり、バレンタインデーに男子から逆にチョコレートをもらったりする人気者だ。
それに引き替え如月はそういった経験すらなく、むしろ「仲良くしてくれてありがとうございます」と人気者の友人に頭を差がたくなってしまうほどだ。
要するに如月は「そんな自分がストーカー被害なんて……そもそも想像が出来ない」と信じて疑わなかったのだ。
「いやいやいや! そもそもストーカーってそういった話云々関係ないから! それこそ『女子生徒』ってだけで被害に遭う事もあるんだよ? ここ最近じゃ性別関係なくストーカー被害に遭うって聞くし……」
「ははは、大丈夫だよ。あ、そろそろ帰らないと!」
如月は「あ、ちょっと!」と呼び止める友人の制止を振り切ってこの公園に入った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
いつから……なんて全然分からない。ただふと視線を感じて早歩きで歩き出すと、如月の後ろを着いて来たのだ。
「……」
しかも、如月が止まると足音も止まる。
今までこんなストーカーになんて遭った事なかったから、実際にこうなった時どうすればいいのか分からなくなる。
「ヒッ!」
これだけの緊張状態ではちょっとした物音にも敏感になる。
しかし、如月の母は昔から見栄っ張りなところがあり、一度だけ友人に車で送ってもらった後すぐ「友達に乗せてもらうなんて申し訳ない!」と叱られた。
如月としては「そんな事を言うのならお母さんが迎えに来てよ」と言いたく鳴るけど、そんな事を言えばさらに大声になって癇癪を起こされるのが目に見えていていたので、その場は「ごめんなさい」と謝った。
「……」
しかし、今はそんな事はどうでも良く、とりあえずこの場を離れる事が先決だと思い如月は早歩きをしながら「とりあえずどこかに避難したい!」という気持ち一心で公園を抜け……。
「この道を真っ直ぐ行けば!」
一目散に駆けて目的地である建物の中に入った。
「はぁはぁ」
――扉を開けると、そこは『教会』だった。
如月はこの『教会』のシスターとは顔なじみで、昔お世話になった事があったのだ。
「変わらないなぁ」
時間は遅かったせいもあり誰もいなかったが、建物の装飾など何も変わっておらず如月は少しだけ懐かしさ浸っていた。
「!」
しかし、すぐに後ろから物音がし、如月は教会に入って一番に近くにあった部屋に入った。
「なんだ、お前。ノックもせずに」
「え」
そうして入った部屋にいたのは……なぜか上半身裸の男性。コレには如月も思わず驚いてしまい。
「っ!!」
悲鳴を上げそうになったけど、すぐにその男性が如月の口を押さえてこらえさせたのだった。
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