第37話 デート Part2
美しい装飾が施された陽明門や唐門などの前では二人のツーショット写真を撮った。フォルダに保存されている弾けた笑顔がとても愛おしい。
眠り猫の前。たくさんの人ごみを掻き分けて、明里と一番前で本当に眠っている猫の彫刻を見る。
「かわいいね?」
「うん」
「ここは何かあるの? 三猿みたいな」
明里が興味津々に聞いてくる。僕は小学生のときの記憶を呼び起こして、自分で調べた知識のように話を始めた。
「この眠り猫はよく見ると後ろ足が立ってて、前足は低くなってるでしょ?」
「確かに……」
「この姿勢でもわかるように、猫は眠りながらもここを通る人を警戒してるんだよ。でも、この裏には雀が彫られてるんだ」
「なんで?」
明里が身を乗り出してまで聞いてくる。
「少し歴史の話になるんだけど、徳川の時代になって戦乱の世が幕を閉じたから、雀を裏に彫って、平和な世の幕開けを示したっていう説があるんだ」
「へぇ~。ちゃんと全部に意味があるんだね」
僕のうんちくに飽きることなく、逆に興味を持って耳を傾けてくれる明里を、また好きになる。
その後、有名な鳴き龍の“鳴き”をリアルで聴いて、明里は何度も楽しそうに手を叩いて龍を鳴かしていた。子供のようにはしゃぐ明里が本当に可愛くて、しっかり動画に収めた。
一通りの観覧が終わって、最後に僕が一番大好きなものを紹介した。
「明里、これ見て?」
「なに?」
階段を降りてすぐの所にある何気ない燈篭を指さすと、明里は可愛らしく僕の隣に並んで、じっとその燈篭を見つめる。
「これは、東北で名を馳せた伊達政宗公が寄贈した燈篭なんだって」
「伊達政宗って、独眼竜の?」
「そう! その印にここ。三日月のマークがあるでしょ?」
「ほんとだ! かっこいい」
「どうしても明里に見てほしくて最後までとっておいたんだ。僕の、一番好きな場所」
「エヘヘ」
明里は恥ずかしそうに笑みを零した。
「写真撮る?」
「撮る!」
僕は明里をその隣の燈篭に立たせて、しっかりとピントを合わせて写真を収めた。
「ありがと~!」
「いえいえ」
持てる知識を全て披露して、美しい彫刻をたくさん見て、本当に楽しい時間を過ごした。
「あ~。楽しかったぁ!」
明里が満面の笑みを浮かべて、伸びをしながらそう言った。
「なんか、心が洗われた気がするよね」
「うん」
明里の手の温もりをしっかり感じながら、僕たちは元来た道をゆっくりと歩いた。
「ねぇ。次はどこ行こうか」
「まだ帰ってもないのに次のデートの話?」
「いいじゃん。先に楽しみがあるほうがいろいろと頑張れるでしょ?」
「だね」
で、次のデートの話になったのだが、お互いに行きたいところが多すぎて結局なにも決まらないまま僕たちは車に乗り込んだ。
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