第32話 最後のたより
彼が勧めてくれたこの本が無かったら、今でも私はハッピーエンドの物語なんか読んでなかったかもしれない。私を変えてくれた、大切な一冊。私と彼を繋いでくれた、だいじな一冊。私は日向の温もりを感じたくて、この本をぎゅっと抱きしめた。
「日向……。会いたいよ…………」
誰もいない窮屈な部屋に、私の震えた声が淋し気に残って溶け込んでいく。
溢れた想いを止められそうになくてスマホに手を伸ばす。
「迷惑、だよね……」
指がスマホに触れてしまう前にピタリと手が止まる。
――もう、日向とは別の道を歩いているんだ。
そう言い聞かせて大きすぎるベッドに腰を下ろす。久々にこの本が読みたくなって、かわいらしい表紙を捲る。するとそこには、一枚のメモ用紙が挟まっていた。
〈僕も、楽しかった〉
特徴のある、筆圧の強い文字。角をしっかりと合わせてきれいな正方形になるように、丁寧に折りたたまれたメモ用紙。一つひとつが日向の性格そのもののように思えた。
「日向……」
涙は……出なかった。私はこの窮屈な部屋で、独り肩を震わせて僅かな床に崩れ落ちた。
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