第136話 異変

 アビスを倒し、目を回したマジュリーが復活するのを待っているのは私ことサクラ・トレイルである。今はアビス……になる前のクジラの事をリヴィに聞いている。


「……なの! 分かった? あなたがどれだけ異常なのか!!」

「うーん。私は普通なんだけどな?」


 クジラの正体はアビスの封印された欠片の一つである嫉妬の欠片。この海底神殿は嫉妬を封印するための神殿で、リヴィは封印の守り人らしい。……オリディア様の話と少し違うな? オリディア様はそれぞれの神霊封印したと言っていたはずなんだけど……。可能性は二つかな。一つはオリディア様が細かいことを気にせずに伝えた可能性。もうひとつはセレスが過去の世界で何かをした可能性。何をしたら欠片が分離するのか、それがこの世界に影響するのかは分からないけど後者の方が可能性が高いと思う。

 だって神霊が欠片の封印の守人だとすると魔王になる切欠だった怠惰の大罪ベルフェゴールをセレスが持つことはなかったはずだから……。もしかしたらセレスが兄弟の事を思って今の関係になるようにしたのかもしれないね。


 話がそれだけどクジラ嫉妬の欠片はリヴィ曰くタイマンだと最強らしい。嫉妬の大罪レヴィアタンのスキルを持ち、このスキルによって指定した一人からの攻撃を完全無効化することができる……はずだったとか。私の攻撃が通ったのは欠片とはいえアビスの能力を超えたことになるとか……。

 やったね! 神超だって! アビスの姿になった時にダメージ量が激減したのは黒い石アビスの核に嫉妬の欠片が混ざって力が強化されたからだとか……。残念、神超は神超でも弱体化した相手だったよ。もっと頑張らないとね。


 そして途中からは私が異常だの変だのやりすぎだの説教? が始まったので聞き流している。それにしてもマジュリーの歌綺麗だったな。頼めばまた歌ってくれるかな?


「聞いてる? 分かった?」

「もちろんだよ!」


 正しくはもちろん聞いてない……だけどね。


「はぁはぁ」

「おぉ、お疲れだね」


 茶化したら睨まれた。えへへ。と笑うとリヴィは何か諦めたようにため息をついた。幸せ逃げるよ?


「うーん? リヴィ? 何があったんだっけ?」


 リヴィのお話が終わると直ぐにマジュリーが起きてきた。簡単に事情を説明してからゲートを開こうとする。


「あれ? 上手く空間が繋がらない?」

「ここが特殊な空間だからじゃない? 神殿の外に出れば使えるはずよ」

「なるほど」


 リヴィの言葉になるほどと思い三人で神殿の外に出る。無事に全員が外に出ると神殿が崩れて砂となった。


「役目を終えたって所かな?」

クジラ嫉妬の欠片を倒したから?」

「そうね。封印するものが無ければあっても意味無いもの」


 感慨深く神殿のあった場所を見ていたマジュリーとリヴィをそのままにしてあげたかったが周りの水が近付いているため声をかける。


「神殿が無くなった影響でここの空間も無くなるみたい。さっさと帰るよ」


 今度はちゃんとゲートを使うことができた。三人でゲートをくぐって海底王国に戻る。


「とても便利な魔法ね。羨ましいわ」

「行ったことのある場所にしか出れないけどね」


 そういえば海底王国にいるとずっと外が明るいけど時間感覚はどうなっているのだろう。


「時間? 私達は眠くなったら寝る。目が覚めたら活動するだけだから昼も夜もないわよ。地上とは違って昼も夜もないからね」

「極端に言うとずっと寝てる人とずっと起きてる人もいるってこと?」

「いえ、やや違うわね。基本的に魚人族は寝ないわ。休む時は国の外に出て潮の流れに流されるのよ」

「???」


 わざわざ潮に流されるの? 寝た方が疲れが取れると思うんだけど……。


「ま、種族の差よ。地上にいる時は他の種族と同じように夜に寝るみたいだけどね」


 人気のない場所から大通りに移動するとリヴィが姿を消す。


「マジュリーは歌をどこで習ったの?」

「私? 習ってないよ」

「へえ、独学であんなに上手いのか」

「小さい頃アイリちゃんによくせがまれて歌ってたんだ」

「いいお姉ちゃんなんだね」


 習うより慣れろ的な? …………違うか。


「楽器も弾けるの?」

「…………」


 マジュリーがそっと視線を外す。弾けないのかな?


「弾けるには弾けるんだけど、チューニングを毎回失敗するの」

「なら他の人にチューニングを頼めば弾けるってこと?」

「上手くはないけどね」


 謙遜してるけど上手いパターンかな? 今度聞いてみたいな。


 今回は私が宮殿までの道を知っていたため直ぐに宮殿まで辿り着く。すると宮殿内が騒がしかった。なにごと?


「あ、マジュリー様にサクラ様! お待ちしておりました。早く陛下のところに向かってください!」


 宮殿の門番さんに話を聞こうと声をかけるとそう言いつつ案内役を買ってでてくれた。もう一人は門番の仕事の為に残るみたいだ。


「何かあったの?」

「中に入れば分かるかと」


 門番さんはそれだけ言うと黙ってしまった。うーん。嫌な予感がするな?


 門番さんに続いて廊下を進み、王の間の前に来る。中で強大な気配が暴れているみたいだ。……この気配は!!


 急いで扉を開けて中を見るとジーベットさんに抱きつくアイリちゃん。そして……二本・・の尻尾を生やし、牙を剥き出しにしつつ近衛兵に取り押さえられているカトレアちゃんの姿があった。

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