第3話

   

「いやいやいや、それもおかしい。神様が代価を要求するなんて!」

 そもそも『死後の魂と引き換えに』というのは、悪魔や死神の決め台詞ではないか。

「あなた、騙されていますよ。それ、神様じゃなく悪魔です!」

 つい語気が荒くなる。貴美子のことを危なっかしい女性だと思ってしまい、庇護欲を掻き立てられていた。

「あらあら、神様も悪魔も同じようなものでしょう? どちらも人智を超えた存在です。そういう存在の概念を、人は『神』と呼ぶのではないですか?」

 私は宗教にも信仰にも疎い人間だから大丈夫だが……。もしも敬虔なキリスト教徒が聞いたら、激怒するに違いない。

「それに、わたくしは死後の世界なんて信じていません。だから死後の魂を取られても大丈夫ですわ」

 非現実的な状況にありながら、貴美子は、妙に現実的な意見を述べる。そんなギャップが、少し魅力的に見えてしまった。

「そういう事情ですから、わたくしと安彦さんは、運命の赤い糸で結ばれている関係なのです。ふつつかものですが、どうぞ末長くよろしくお願いします」


 まるで嫁入り挨拶のような言葉を聞かされて、私は絶句してしまう。

 しかし貴美子の方では、平然と話を続けていた。

「納得していただけたようなので、最初の質問に戻りますね。安彦さん、今どこにいますか? 早く会いたいですわ!」

 熱っぽい口調の彼女とは対照的に、私は冷たい声で返す。

「……職場です。いつものように残業中です」

「まあ、ごめんなさい!」

 ハッとしたような態度に続いて、不思議そうな声も聞こえてきた。

「あら、残業と言いましたか? でも、今は昼間のはず……」

「日本ならばそうでしょうね。私はアメリカで働いているのです」

   

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