第6話
ソファーに、知幸とユキが並んで座り、L字型になっている一人掛けのところに怜生が座った。
テーブルの上には、コーヒーが三つ。お皿に山盛りのクッキー。そして、ユキが買ってきたというプリンが乗っている。
何でも、このプリンを買うために怜生が兄と待ち合わせた場所まで行っていたらしい。ここのプリンが最近のお気に入りで、買う理由を見つけては、お店に寄ってくるそうだ。そこまでハマっているプリンとは、どんな味なのだろう。
ゴクリと喉を鳴らす音が聞こえたのか、「食べてもいいぞ」と言うので、早速食べることにした。
怜生は甘いものに目がない。
見た目が幼いのに、甘いものを食べている姿を周りがどう見るか、だいたい想像がつく。
そう「カワイイ」なんて耳にタコができるほど聞いた。
だから、人前では我慢して、ポテトや唐揚げといったものを食べている。
けれど、ここにいるのは兄ともう一人だけ。
それに、買ってきた人がハマっているとなれば、遠慮することはない。
ユキの存在は気になるけれど、ハマるほどのプリンはそれよりも誘惑的だった。
透明な容器に入った、つるんとした表面にスプーンを差し込み、救い上げる。
口に入れると、すぐに溶けてしまうほどに滑らかで、ほどよいバニラの香りが鼻腔を抜けていく。
甘さと滑らかさに舌鼓を打っていると、フッと笑う声が聞こえた。
目線を上げると、二人の目がこちらを向いている。
笑っているのは知幸だった。ユキはと言うと、初対面の時のまま、淡々とプリンを食べる手が止まっていた。
「え、な、何?」
ジッと見られている居心地の悪さったらない。
好きな物ぐらい堪能したっていいじゃないか。
「怜生はいつ見ても幸せそうに食べるな。なあ、雪。いいだろ」
話を振られたユキは、スプーンにプリンを乗せたまま止まっていた手を動かした。
形のいい口の中へと吸い込まれていく。
嚥下したあと、軽く頷いた。
「そっか、じゃぁ、オッケーだな」
何が『いいだろ』で何が『オッケー』なんだ?
と、突っ込みたくなる兄の質問に、伝わっているかのような頷き。
一緒に暮らしていたら、夫婦のように詳しく言わなくても伝わるようになるのだろうか。
知幸は無表情で食べているユキに顔を向けた。
「自己紹介をどうぞ」
「雪野龍之介だ。よろしく……。あとは知幸に任せた」
来年から、シェアハウスしようっていう相手に、ニコリともしなければ、愛想もない。
綺麗な切長の目を伏せ、興味なさそうに言う姿に、冷たさが増す。シェアハウスなんてできるのかと不安になっていると、知幸が軽く笑った。
「仕方ないな」と言い怜生の顔を向けると話を続けた。
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