おかしい可笑しさ

 僕は、昔から「つ」を上手に発音できない。


 一生懸命に神経を集中すればするほど、


 「つぅ」とか「つゅ」みたいな感じになってしまう。


 自分ではまったく気づいていなかったが、


 いじめっ子たちは見逃さなかった。


 何度も何度もしつこいぐらいに、


 「つ」が入っているクラスメイトのあだ名を言わされた。


 いじめっ子たちはおかしそうに笑いながら、


 僕の発音の真似をしては馬鹿にした。


 ほら真似してみろとばかりに、


 「つ!つ!」とくりかえしては馬鹿にした。


 彼らにとって「つ」を発音できないのはおかしいことで、


 「つ」を発音できない僕がよほど可笑しかったのだろう。


 でも、僕に彼らを非難する資格はない。


 自分の中にある「普通」や「当たり前」からはずれた人を見たとき、


 僕もそこに「おかしさ」を見つけてしまうからだ。


 彼らのように「可笑しさ」を感じることがなかったとしても、


 人間としての根っこの部分ではたいして違いはない。


 だが、誰かの「おかしさ」を「普通」や「当たり前」として、


 少しでも素直に受け入れられるようになりたいと思っている。


 改めるべきは自分の中の「普通」や「当たり前」であり、


 誰かの「おかしさ」ではないと思うからだ。

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