第32話 ロランが背負った使命

「出ておいで~シロッ!」

《アォォォォォォォンッッ!! はっ!? あ、主!? 話の途中で呼び出さないで下さいよ!》

「え? あれから一週間も待ったのにまだ話してたの?」

《あ……。せ、説明忘れてたワン……》


 フェンリルの話によると神のいる世界とここでは時間の流れが違うらしい。ここでの一日が神界では一分になるのだそうだ。


「ま、まぁまぁ。それで? 何かわかった?」

《……全部聞けたわけではありませんが、ロランさん──いえ、ロラン様!》

「ロラン様!? なんで急に!?」


 フェンリルはロランの前で伏せた。


《やはりあなた様は神の使徒でありました。使徒様は神獣より上の立場にある者。今より聞いた分だけ説明いたしますのでお耳をお貸しください》

「あ、うん」


 フェンリルは伏せたままロランに言った。


《まず、今から五年後……この星に厄災が現れます》

「「厄災?」」

《はい。それが何かは途中でしたのでわかりませんが……、神はあなた様と他六人に力を与えられました》

「僕と……六人?」

《はい。力は二十歳の誕生日を迎えた日に覚醒するとの事です》

「え? 僕もう力あるんだけど……」

《それは仲間を集めるために必要な最小限の力です。神から仲間の名前も聞いて参りました》

「名前は?」


 フェンリルは六人の名前を口にした。


《アレン・ジャスパー殿、セレナ殿、ジェード殿、グレイ・バイアラン殿──》


 ここまではすでに面識のある人物だ。


《それと【イリア・グロウシェイド】殿、【クルル・ヤガミ】殿の六名です》

「その二人は知らないなぁ……」

「は? ちょっとロラン!? あなた自分の国の王女様の名前も知らなかったの!?」

「へ?」


 セレナは開いた口が塞がらなかった。


「イリア様はこのグロウシェイド王国の第一王女様じゃない! しかも私達と同じ歳!」

「ま、マジ?」

「はぁぁぁぁ……。ちょっと待って。アレン達も呼んでくるわ」


 三十分後、マライアを含めた皆が応接間に集まった。


「神の……使徒? え、ロランが!?」

《うむ。ワレは神獣フェンリル、嘘は言わん》

「今から五年後に厄災……だと」

「うわぁ~……うさん臭いっス」

《うさん臭くないっ! というか……そこのお二方はまたアホほど強いですね……》


 戦える二人は戦後も己を鍛え続けていた。アレンは純粋に強さを求め、ジェードは少し不純な理由で力を増していた。


「深く潜った方がレアな物拾えるっスからね~。ウチ、除隊されたしお金が必要なんっスよ~」

「何に使ってるの?」

「ギャンブルっス!」


 ジェードは思いの外ダメ人間だった。


「ワンちゃん」

《フェンリルだ!》

「じゃあフェンリル、なぜイリア様を?」

《それはわからぬ。神の気まぐれとしか……》

「もう一人は?」

《わからぬ》

「……使えない犬ね」

《食らうぞ!?》

「ロラン」


 フェンリルがマライアを威嚇するとロランがマライアの前に立ちフェンリルを睨む。


「マライアさんには傷一つつけさせないよ」

《クゥゥゥゥゥン……!》

「可哀想な犬だな……」


 フェンリルが大人しくなったところで話しは戻る。


「話はわかったわ。ロランとその六人が五年後に現れる厄災からこの世界を守る。その六人は二十歳の誕生日プレゼント迎えた日に本当の力が覚醒する。誰を選んだかは神の気まぐれ。オーケー?」

《う、うむ。ワレも話の途中で呼び戻された故にこれ以上の事はわからぬのだ》

「ならもう一度帰って聞いてきたら?」


 フェンリルは首を横に振った。


《神は眠りにつかれた。五年後に備えて力を蓄えると言われてな》

「……厄災ってそんなに大変な事になるの?」

《それはワレにもわからぬ。呼び戻されなければ聞けたのだが……》


 セレナはこれ以上突っ込まなかった。


「しかし神はこの世界にギフトでしか干渉できないのだろう? なぜ力を蓄える必要がある?」

《それは使徒様達だけで解決出来なかった場合に備えての事だろう。神は異世界から力を有した者を召喚する気やもしれん》

「異世界から……勇者というやつか」

《うむ。たびたびこの世界にも他の神が粗相して異世界から勇者が招かれているはずだ》

「お伽噺じゃなかったのか」


 そこまで話を聞き、ジェードが口を開いた。


「わかったっス! 最後の一人、もしかしたら東の果てにある島国にいるかもしれないっス!」

「なんで?」

「確か東の果てにある島国ではそんな感じの名前が使われていたはずっス」

「東の果てかぁ……」


 悩むロラン達を他所に、マライアはすでに動き出していた。


「どうしたんですか、マライアさん?」

「国王に手紙を書いてるのよ。イリア様をこっちに寄越せってね。神でさえ備えが必要な相手が厄災なのでしょう? なら今からでもすぐにイリア様を鍛えなきゃならないじゃない」

「あ、そっか! さすがマライアさんです!」

「話はイリア様が来てからにしましょう」


 そして数日後、マライアの屋敷にグロウシェイド王国第一王女、イリア・グロウシェイドが姿を見せた。その姿は王女というより騎士のようだった。白銀の鎧に身を包み、綺麗な金髪をなびかせていた。


「マライア殿、お久しぶりです」

「これはイリア様。ようこそおいで下さいました」

「いえ。至急大事な話があると書かれておりましたので」


 そう言い、イリアはロランをチラリと見た。だがロランが視線を合わした瞬間、これまで毅然とした態度だったイリアは真っ赤になり取り乱し始めた。


「そ、それで! だ、大事な話とは? わ、私が彼と結婚するといった話だろうか?」

「「は?」」

「え?」


 場に重い空気が走った。


「ち、違うのか? ロラン殿を婿に迎え次の王にするという話では……」

「まったく違います! そんな事でわざわざ呼びつけるわけがありませんっ!」

「そ、そんな事だと!? 私にとっては何より重要な話なのだが!?」

「チラチラ見ないで下さい、イリア様。本当にそんな事を言っている場合ではないのです!」

「そんな事……そんな事……しくしく……」


 イリアはショックを受けていた。そこにダニエルが姿を見せた。


「イリア様、私物はどの部屋に運ぶのですか? ああ、マライアさん。イリア様の部屋はどこでしょうか?」

「持って帰れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

「え?」


 ダニエルは肩に担いでいたベッドを床に落とすのだった。

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