12
「お嬢様!」
屋敷へと戻り、ヴァイスのエスコートでロゼが馬車から降りていると侍女が駆け寄ってきた。
「どうしたの」
「旦那様とフェール様が……お二人の帰りをお待ちです」
ロゼとヴァイスは顔を見合わせた。
「……バレてしまったの……」
「まあ、挨拶に行く手間が省けて良かったな」
青ざめたロゼを勇気付けるように、ヴァイスはロゼを抱き寄せると頭にキスを落とした。
「何だその手は」
腕を組み、仁王立ちして待ち構えていたフェールは二人が手を繋いで現れたのを見て目を吊り上げた。
手を繋いだまま二人が視線を合わせるとますます不快そうに口を引きつらせる。
「ヴァイスよ」
宰相が口を開いた。
「お前のせいで面倒な事になった」
「面倒、とは?」
「オーウェンの奴が陛下たちの前で、お前がロゼを街に連れ出したと言ったのだ」
「父上が?」
目を見張って――ヴァイスはため息をついた。
「あの人は……余計な事はするなと言ったのに」
今日の事を父親には言っていなかったが、家の馬車と護衛を使ったせいで筒抜けになるとは覚悟していた。――だが、まさかそれを他の貴族たちに言ってしまうとは。
「本当に余計な事をしてくれた。お陰で王宮中にお前たちの関係が知れ渡ってしまったぞ。……全く、お披露目もしていないというのに男と噂になるなど」
「ご迷惑をおかけいたしました」
ヴァイスは宰相に向かって頭を下げた。
「この責任は一生かけてロゼを守る事で取らせて頂きます」
「……私は認めてはおらんぞ」
「ロゼには既に婚姻の申し込みを受けて頂いています」
「何だと?」
「……ロゼ」
フェールはヴァイスに手を繋がれたままの妹を見た。
「それは本当か」
「……はい」
「お前たちはまだ知り合ったばかりだろう」
「それでも……」
ロゼは兄をまっすぐに見上げた。
「初めてお会いした時から……ヴァイス様は特別な方なんです」
「ロゼ……」
視線をフェールからヴァイスへと移してロゼは微笑んだ。
正直、これが〝恋〟というものなのかは分からない。
けれどヴァイスと共にいる時に感じる安らぎのような感情は……これまで雫として生きてきた間ずっと欲しいと思っていたものだというのは分かる。
居場所がないと思っていた自分が、ここにいたいと……いるべきだと思える場所。
それはこの国や家族である以上に、ヴァイスの傍なのだと。
見つめ合うロゼとヴァイスを見つめていた宰相はその視線をフェールへと移した。
父親の視線を感じたフェールはそれを受け……小さく頷いた。
「三ヶ月後にロゼのお披露目を行う」
宰相の声にロゼははっとして父親を見た。
「その時までに互いの心が変わらなければ……その場で婚約の発表を行おう」
「お父様……」
「心が変わらなければ、だからな」
フェールが口を開いた。
「それまでによく考えるんだ」
「はい」
「ありがとうございます」
二人揃って頭を下げると再び顔を見合わせ、笑みを交わし合うロゼとヴァイスを苦々しげに見るフェールに宰相は苦笑した。
「フェール」
息子の頭をぽん、と叩く。
「お前も早く妹離れをするんだな」
誰よりもロゼを可愛がっていたフェール。
そのフェールが自分の力のせいでロゼを失い、心を閉ざし続けていた事をずっと側で見ていた。
そんなフェールにとって、やっと戻ってきたばかりの妹が他の男に取られるのを見るのは……父親の自分にとっても辛いものであるけれど。
「家族ならば幸せを願ってやるものだ」
「――分かっています」
「お前も幸せになるんだぞ」
そう言って宰相は息子の頭をもう一度ぽんと叩いた。
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