勇者VS厄災の魔物アラネ

 空が夕焼けに染まる頃、村の北から土煙が上がる。


 大量のポイズンスパイダーと、その中心には大きな蜘蛛。


「ぎいいいいいいい」


 大きな蜘蛛の号令と共にポイズンスパイダーが村の柵から距離を取り、扇状に隊列を組んで止まる。


「お前たち!わらわと可愛い子供の餌になれ!抵抗しなければ苦しませず餌にするのじゃ!!」


 勇者と賢者が柵の内側に立つ。


「言葉を使い、知能も高そうだぜ」


「間違いない!厄災の魔物!」


「おらの家より背が高い蜘蛛、化け物だあ!!」


 ゴンがひるむ。


「俺の名はシャイン、勇者だ!まず名を名乗れ!」


「わらわの名はアラネ!そんな柵に隠れても無駄じゃ!わらわにかかれば簡単に乗り越えられる!」


 アラネが柵まで走りつつジャンプして柵を飛び越える。


「ひ!ひいいいい!」


「殺される!殺されちまう!」


 村人が混乱し始める。


 勇者が叫ぶ

「落ち着けえええ!アラネは俺と賢者マギが相手をする!みんなはポイズンスパイダーを中に入れないよう戦え!」


 ゴンが震えながら叫ぶ。


「そ、そうだべ!おらたちには勇者と賢者がついてるだ!おらたちが頑張ってポイズンスパイダーを倒すだよ!」


「ほお!勇者と賢者のたった2人でわらわの相手をすると?面白い!受けて立ってやるのじゃ!」


「相手になってやるぜ!」


「アタックブースト!スピードブースト!ガードブースト!ハイファイア!」


 賢者は勇者に補助魔法をかけ、魔術攻撃を繰り出す。


「せっかちじゃのう!始めるか」


 アラネが賢者にクモ糸を出すが、賢者の炎魔術で燃やされた。


 その隙に勇者がアラネに迫り、聖剣の一撃を叩きこむ。


 だが、アラネのバリアによって攻撃が防がれた。


「無詠唱、バリアを使ってる」


 無詠唱とは、魔術の詠唱を無しで魔術を使う事で、高速で魔術を使うスキルである。


「問題無いぜ!真・雷光斬!」


 賢者の補助魔法と勇者の超火力を合わせた最強攻撃がアラネのバリアを破りアラネに直撃した。


 1日1回限定の聖剣と勇者のアーツを合わせた必殺の1撃が決まり、アラネがのけぞる。


「ぎょおおおおおおおおおおお!」


 アラネの腹の中までぱっくりと傷が開き、アラネがよろよろと後ろに下がる。


 バリアで身を守る事で致命傷を避けた為必殺の1撃に耐えることが出来たのだ。


「思ったよりしぶとい!だがまだまだだぜ!」


 勇者は更に追撃を仕掛けた。


 賢者も魔術攻撃で追い詰める。


 アラネはバリアを出しつつ後ろに下がる。


 特に勇者に対しては壁にするようにバリアを何度も出す。


 勇者は完全に警戒されていた。


「ち!バリアが邪魔だ!」


 バリアをステップを踏んで躱しつつアラネに迫る。


「雷光斬!」


 ギリギリのところでアラネがバリアを出すが、それを突き抜けて雷光斬が顔にヒットした。


 アラネは力を振り絞って跳躍し、柵の外に逃れた。


「わ、わらわを守るのじゃ!」


 そう言いながら後ろに下がる。


 ポイズンスパイダーが前に出て柵に迫る。


「助けてくれええ!」


「がああああ!」


 村人に迫るポイズンスパイダーを倒すため勇者と賢者はポイズンスパイダーを倒していった。


 賢者と勇者がアラネを見ると信じられない光景を目にした。


「な、んだと!」


「予想、外」


 自身に無詠唱のヒールをかけて傷を癒していたのだ。


 ヒールを使う魔物はほぼいない。


 だが、厄災の魔物は使ったのだ。


 厄災の魔物は特殊なスキルを使う事があり、知能も高い。


 普通の戦い方が通用しない事があるのだ。


 気づいた時には手遅れで、すでに半分以上傷が治っていた。


 アラネはポイズンスパイダーをけしかけ続けて、自身の傷を完全に回復させるに至った。


 そして勇者と賢者をじっくり観察し、攻めてこない。


 厄災の魔物は知能を備えていた。


 あの勇者は危険!


 わらわの子供達でいたぶってからわらわが攻撃しても遅くはない。


 わらわ抜きでも子供たちは勇者を疲弊させている。


 勇者が疲弊し、動きが悪くなった時、わらわが止めを刺す。


 もしそれでも勝てそうになければ、撤退し卵を大量に産んで攻め直せば良いのじゃ。


「どんどん戦うのじゃ!」


 ポイズンスパイダーの数が多く、勇者と賢者は消耗を強いられた。





 ◇





「子供達をほとんど倒したようじゃのう」


 勇者と賢者は『ぜえ!はあ!』と息を荒くし、村人も動きが悪くなっていた。


 アラネが柵の近くに迫り、矢を受けながらも毒のブレスを吐き、柵と並走するように走り、毒をばら撒いた。


「ハイウインド!ハイウインド!」


 賢者が必死で毒のブレスを押し返すが、途中で膝をついた。


 アラネが折り返すように柵の外から更に毒のブレスを吐き、後ろに下がった。


「ぎょほほほほほ!わらわの勝ちじゃのう!毒で倒れたお前らはわらわが食らって有効に活用するのじゃ」


 そう言いながらヒールで矢を受けた傷を回復させ、餌をねっとりと観察する。






「皆動きが悪くなってきたのう。あと少しで頃合いか」


 ミーアが前線に走ってきた。


「セイントフィールド!」


 ミーアの背中に光の翼が現れ、周りを浄化していく。


 セイントフィールド、使用者の周りの空間、傷、状態異常すべてを癒すSランクの聖女しか使用することが出来ない回復魔術だ。


「ミーアの周りにみんなを集めろ!」

 勇者の号令で倒れている者が救出されていく。


「聖女様だっただよ!」


「ありがたい!」


「奇跡が起きた」


 アラネが怒ってミーアを狙い近づいた。

「おのれえええええ!」


 あの女が居なければこれで終わっていた。


 邪魔なやつじゃ!


 アラネの近くに岩の針が出現し、ミーアを狙う。


「ハイサンダー!雷光斬!」

 雷の魔術と斬撃がアラネに飛ぶ。


「ぎょおおおお!」


 アラネは勇者の攻撃にひるんで後ろに下がった。


 勇者は聖剣を地面に突き刺し寄りかかる。


「ぎぎぎ!・・・・・勇者も限界か!ぎょほほほほほ、勝った!わらわの勝ちじゃ」


 勇者が弱っている事を見て取り、アラネは冷静さを取り戻す。


 アラネは傷を癒し、万全の状態を整える。


「確実に殺してやるのじゃ」


 アラネが勇者とミーアに迫る。


 だが、アラネの背中が燃え、炎が広がる。


「ぎょおおおおおお!」


 きゅうが死角から狐火を放ち、背中を焼いたのだ。


 きゅうは何度も狐火を放ちアラネを燃やす。


 アラネがきゅうを捕らえた瞬間きゅうは逃げ出した。


「わらわに何をしたああああ!」


 アラネはきゅうを追いかける。


 きゅうが森に入ると、木をなぎ倒しながらアラネが追いかけた。


 バキバキと木をへし折り自身が傷を負いながらもかまわずきゅうを追いかける。


 ノーマと約束した!


 アラネは岩の大きな針をきゅうに飛ばす。


 きゅうは横に飛んで攻撃を躱す。


 ミーアを守る!


 アラネは細かい石のつぶてをきゅうに放つ。


 きゅうは背中に石のつぶてを受け一瞬よろめくが、すぐに体勢を立て直して逃げる。


 守るんだ!


 アラネは木をへし折りながら突進するように進み、細かい傷をヒールで癒しながらもなおきゅうを追いかける。


 追いつかれそうになるときゅうがアラネの足に噛みつく。


『きゅうの格闘スキルのランクがCからBに上がりました』


『格闘スキルの成長限界に達しました』


「ぎょおおおおお!」


 アラネの腹下から何度も噛みつく。


 アラネが腹を押し付けてきゅうを押しつぶそうとする。


 その隙にきゅうはまたアラネから離れ、逃げながら走る速度を上げた。


「犬っころがいい気になるなあああ」


 毒のブレスをきゅうが食らう。


 きゅうの走る速度が徐々に落ちる。


 きゅうにアラネが迫った。





 アラネの背中に何かが突き刺さった。


『きゅう!助けに来たよ!さあ、ノーマ!厄災の魔物を倒すんだ』


「セイ!おりゃ!はあ!」


 ノーマはアラネの背中から聖剣ムーンライトを何度も突きさす。


 アラネは背中を地面に叩きつけて潰そうとする。


 ノーマは素早く飛び降り、「ヒール!リカバリー!」ときゅうを回復させ、左腕できゅうを持って村へと逃走した。


「な、何じゃあいつは!!」


 アラネがノーマを追って走ってきた。


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