村人ジョブなのに何故か勇者パーティーだった俺はパーティーから離脱し、助けた聖女の正体を隠し、聖剣所持者も見事回避したが、全部失敗した挙句ソロで厄災の魔物を討伐し英雄にされてしまった

ぐうのすけ

パーティー抜けます!

「ぐおおおおおおおおおおおお!」

 厄災の魔物『キュウビ』が吠えた。


 キュウビは俺の背の2倍ほど大きい狐で、尻尾が9本生えている。


 このキュウビとの戦いでパーティーは疲弊していた。


 皆息を切らす。


「キュウビを放置すれば国に危険が及ぶ。俺達で倒すぜ!」

 今叫んだのが勇者シャイン。

 金髪と青い瞳のイケメンで、この勇者パーティーのリーダー。

 強力な剣術と光魔術を使いこなし、更にその2つを組み合わせた光の魔術剣は強力だ。


「もうすぐ、倒せる」

 この女性は賢者マギだ。

 銀髪の青い瞳のミステリアス美人で、すべての魔術を使いこなす。


「ハイブリザード!」


 賢者の魔法でキュウビの狐火を撃ち消しつつ、ダメージを与えていく。


 だが、キュウビは新たに狐火を出して自身の周りに浮かせる。


「く!キリがねーぜ!ノーマ!ミント!少しだけ足止めをしてくれ!」


 俺【ノーマ】は脇差を右手で構えつつも、遠くから左手で魔術攻撃を放ち注意を引き付ける。


 それが俺の役割だ。


 とにかくキュウビから距離を取ったまま攻撃を続ける。


 キュウビの狐火が俺を狙う。


 4つの狐火の内1つを撃ち漏らして狐火の直撃を受けた。


 狐火は俺の全身に燃え広がり一気に俺を焼く。


 アッツ!いだだだ!

「ヒール!ヒール!」


 俺は自身を回復させる。


「こっちですよ!」

 エルフの女剣士ミントが死角から斬りかかる。


 ミントは金髪ロングヘア、青い瞳の美人エルフだ。


 俺を守る為無理して前に出る。


「ハイヒール!アタックブースト!スピードブースト!」

 賢者はすべての魔力を勇者に使い、膝をついた。


「待たせたな!!雷光斬!」


 雷光の斬撃がキュウビを捕らえるが、攻撃が浅い!


「まだだ!雷光斬!」


 2度目の攻撃でキュウビに直撃を与えた。


 キュウビがよろけながら、勇者に向かって前足を振りかぶり、その手が黒く染まる。


 まずい!勇者は避けられない!


 俺は勇者の前に立つ。


 キュウビの黒い斬撃を受けつつ、俺は叫ぶ。


「テイム!」


 キュウビが小さくなり俺の顔をなめる。


 俺は気を失った。





 ◇






 目を覚ますと見知らぬ天井。


「俺はいったい?」


 近くに居たシスターがやさしく微笑む。

「ご気分はいかがですか?ノーマさんはキュウビの呪いを受けたんですよ」

 

「思ったより悪くないな」


 そうか、俺は呪いを受けていたのか。


 最強の状態異常は呪いだ。


 更に国が傾くと言われる厄災の魔物の呪いともなれば、命にかかわる。


 呪いを受けると、生命力をを徐々に奪われ死に至るが、俺の回復力アップのスキルと打ち消し合って助かったのか?


 そこに勇者パーティーがお見舞いに来る。


「きゅう!」

 狐が俺に飛び込んですりすりしてくる。


「この狐俺にすごく懐いてくるな」


「ノーマ、大丈夫か?お前がテイムした元キュウビだぞ」


「・・・・・そういえば戦いでテイムを使ったけど、成功してたのか」


「きゅう!」


「今日からお前はきゅうだ」


 きゅうをテイムしたことで邪悪さが抜け、小さくなった。


 今は普通の狐と同じ大きさだ。


 そして尻尾は1つだけになっている。


 俺はきゅうを抱く。


 ・・・・・


 今こそ言おう。


 俺は死にかけた。


 勇者パーティーとして戦う力が俺にはない。


 俺は自由にのんびり生きていく。


「もう俺は無理だ。村人ジョブと言われる俺じゃ勇者パーティーでやって行くのは無理なんだ!のんびり暮らしたい!パーティーを抜ける!」


 やっとだ。これで解放される。


 もう寝て過ごすわ。


 今まで苦しかった。


 俺のジョブ職業は『スーパーノービス』だ。ノービスから2回ランクアップする事で到達できるが、皆には村人職とバカにされている。


「脱退は認めないぜ!」


 勇者は俺の話を一刀両断した。


 バッサリ切られる、だと!


 いや、まだ話は始まったばかりだ。


 まだいける。


「俺は頑張ってジョブスキルを限界まで鍛えた。だが剣では勇者に劣り、魔法では賢者に劣り、ミントの成長速度が速すぎて俺は皆についていけなくなる!いや、もうついて行けないでいるんだ!俺は器用貧乏で強みが無い!」


 俺は剣術も魔術もBランク止まりの器用貧乏。


 勇者はAランクの剣術と雷魔術を使い、Sランクの魔術剣スキルを使いこなす。

 賢者は全魔術をAランクで使いこなす魔術のエキスパート。

 ミントの剣術はBランクだが、身体強化のスキルを使いこなし、剣術のランクもすぐAランクに上がっていくだろう。


 俺が村人職なのは致命的だ。スーパーノービスの限界であるBランクになるまで剣術も魔術も修行した。


 だが、限界まで鍛えても、皆について行けない事を思い知らされる結果となった。


 本当にきつくてついて行けない。


 村人職が勇者パーティーに居るのが間違いなんだ。


 もう辞めたい!


「ノーマ、お前を村人職と言ってバカにするやつが居るのは知っている。だがノーマの力に今まで助けられてきた。辞めさせる気はないぜ」


 辞めさせろよ!


 疲れたんだ!


 戦闘職のさらに上位の存在である勇者や賢者にはもうついて行けないんだ!


 器用貧乏の俺に未来はない。


「・・・・・俺は呪いを受けているんだ」


 最強の状態異常は呪いだ。


 そして厄災の魔物の呪いは強力。


 解呪するには何度も何度も解呪の魔術を使う必要がある。


 今まで黙っていた賢者マギが手をかざす。

「ハイリカバー!ハイリカバー!ハイリカバー!」


 断りもなく俺に異常解除の回復魔術を使う。


「絶対、治す」


 そう言う事じゃないんだ!辞めたいんだよ!


 話を変えよう。


「皆迷信を信じすぎじゃないか?」


「迷信?何のこと?」


「厄災の魔物を倒すためには、勇者・聖女・ノービスの3人が必要って話だよ。あれ嘘だぞ。だって聖女が居ないけどキュウビを倒せただろ!つまりノービスが必要ってのは迷信だ!」


 村人職の俺が居る必要は無い!


「だが、勇者とノービスの2人までは揃ってたぜ」


「ノービスは器用貧乏なんだよ!がんばって最終ジョブのスーパーノービスまでランクアップして剣術も魔術も限界まで修行したけどBランク止まりでこれ以上ランクを上げられない!俺には先が無いんだ!」


「全部Bランクは強いだろ。色々出来るじゃねーか」


「それを器用貧乏って言うんだよ!」


「ノーマ、優秀。Bランク自体貴重」


 お前らはみんなAランクになれる特別な人間だろ?


 ミントの剣術だけはBランクだが、すぐAランクになるだろう。


 Bランクの剣術持ちがAランクの剣術持ちと闘えばまず勝てない。


 ランクの差は大きいのだ。


「Bランクで色々出来るのは優秀ですよ。私だってBランクです」


 ミントはまだ剣術スキルが伸びるし将来性がある。


 ややこしくなるから黙っていて欲しい。


 話を聞いてもらえないだと!


 みんな、共感能力が無さすぎるぞ。


 こうなったら感情に訴える。


「俺の呪いで勇者と賢者の足を引っ張るわけにはいかない!みんなは先に進んでくれ!」


 キリ!


 俺は決め顔をした。


「駄目ですよ仲間は見捨てません!」


 剣士ミントが俺の頭を撫でる。


 ミントの顔が近づきドキッとする。


 だがお前ら、その優しさを俺をゆっくりさせるために使ってくれ。


 ほんと頼むわ。


 村人職に勇者パーティーはきついって!


「お前、ノーマルスキルを3つも持ってるだろ。強いじゃねーか」


「強くない。あれは決め手の攻撃にはならない」


 ジョブスキルの他に誰でも取得できるノーマルスキルがあるが、あれは、剣術や魔術攻撃のスキルに比べて効果が薄い。


 ランクを最後まで上げることが出来て誰でも取得できるノーマルスキルだが、スキルの効果は高くないのだ。


「そこまで強くなったら抜けるのは無理だぜ」


「勇者!話聞けよ!」


 おかしい。いつもはもっと話がすんなり進むのに?


 話にならないぞ?


 だが俺は諦めない。




「チェンジだ!俺と他の奴を交換しろ!俺と同じジョブの人間ははいっぱいいるだろ!」


 なんせ多くの者が村人職と言われる『ノービス』だ。


 誰かいるだろ。


「もう変わり、居ない、強い人、みんな死んだ」


「ノービスだからな。俺もノービスだぞ」


「お前はスーパーノービスだ。下位のジョブと一緒にするのは駄目だぜ」


「2回もランクアップ出来たのはすごいですよ」


「今、下位のノービスしかいない」


「次は俺が死ぬのか?俺が死ぬまで勇者パーティーを続けさせるのか?」


「その気になったらお前絶対死なないだろ?」


「死ぬって!俺は皆と違って普通の人間なんだよ!」


 最終手段だ。


「うえーん!」

 

 そう、ウソ泣きだ。


「ウソ泣き、良くない」


「うえーん!」


 俺は泣き続ける。


「そう言うの良くないですよ」


「そういうとこだぞ。どんな手でも使ってくる手数の多さと柔軟さがこのパーティーには必要だ。お前が抜けるのは駄目だぜ」


 俺はウソ泣きを止めた。 


「俺の命は?俺このままだと死ぬよな?」


「だからお前死なねーだろ」


「しんどい。のんびり暮らしたいんだ」


「人の命がかかってる。諦めろ」


 出たよ、勇者と賢者は皆の命が救われる為なら自身と周りが不幸になってもいいと思ってる。


 俺は勇者のように強くないんだ!死ぬ時はあっさり死ぬよ!?


 皆の命を守ろうとする勇者と賢者は立派だが、俺は普通の人間なんだ。


 そういう精神面からして俺と英雄では違いすぎる。


 俺に賛同してくれそうなのはミントだけか。


「ミント、か弱いノービスの俺が勇者パーティーに居るのはおかしいよな!?」


 俺はミントの両手を強く握ってミントの目を睨む。


 ミントは落ち着きが無くなりおどおどする。


 何故か顔が真っ赤になっていた。


「脅すのは駄目だぜ!」

 

 俺は手を引きはがされた。


「別に、怖くはないですょ・・」

 ミントが珍しく口をもごもごさせる。


 いつもはもっとはきはきしてるのにな。


「お前呪われてるのに元気じゃねーか。復帰は早そうだな」


「本当にきついんだ。もう休みたいんだ!のんびり暮らしたい!!」


 俺は最後の抵抗を続ける。


「抜けるのは無しだぜ!!」


 すべての手を封じられただと!


 俺は絶望した。


「疲れてんだよ。休め」


「休めば元気になりますよ」


「呪い、解けたら前向きになる」


 勇者パーティーは出ていった。


 俺は外に出て叫ぶ。


「お前ら、俺を追放しろよ!俺はみんなとは違うんだよ!」


「しねーよ!」


 ぽつぽつと降っていた雨が激しくなってきた。


「器用貧乏の俺を追放するのが勇者の役割だろーが!!」


「意味が分からねー。おい、無視して帰るぜ」


 勇者パーティーは俺を無視して帰っていく。


「追放しろよ!俺を追放しろよ!!」


 ミントが振り返ろうとするが、賢者に「ダメ、甘やかすの、良くない」と言われ、ミントを引っ張る。


 俺は激しく打ちつけてくる雨に打たれながら泣いた。


 崩れ落ちて泣いた。


 悔しい!離脱を許さないなんて!


 追放してくれないなんて!


 世界は間違ってる!




 俺の言う事をみんなが聞き流して帰っていった。


 残されたのは俺ときゅうだけ。


「ステータスオープン」


____________________

 ノーマ 男

 ジョブ スーパーノービス

 ジョブスキル

 剣術        Bランク

 全魔術       Bランク

 斥候        Bランク

 魔物使い      Bランク


 ノーマルスキル

 全ステータスアップ Sランク

 全回復力アップ   Sランク

 状態異常耐性    Fランク

 逃走        Fランク


____________________




 俺はため息をついた。

 ジョブは産まれた時に決まっている。

 ランクアップすることは出来てもジョブを変えることは出来ない。

 ノービスに生まれたらずっとノービスなのだ。


 俺は『ノービス』として生まれそれでも諦めず修行してきた。

 頑張って修行してノービスの到達点である『スーパーノービス』に上り詰め、ジョブスキルのランクを限界まで上げた。


 だが、その結果は、特別なみんなと比べて俺が普通である事実を思い知る結果となった。


 これだけは負けないという武器が何もない。


 Bランク止まりの器用貧乏である事実を突きつけられるのだ。


 それでも努力してどのジョブでも関係なく取得可能でランクを最後まで上げられる『全ステータスアップ』と『全回復力アップ』を取得した、限界までランクを上げたが、結果は変わらなかった。


 ノーマルスキルの効果は剣術や魔術に比べると劣る。

 剣術Bランクの者が、剣術Aランクと闘えばまず勝てない。

 俺は『全ステータスアップ』のスキルを限界まで鍛えて勇者と剣で戦ったが、勇者には1回も攻撃を当てることは出来なかった。


 俺には何も無いのだ。


 俺は布団を被って泣いた。






 ノーマはただ勇者パーティーを抜けてのんびり生活したいだけであった。


 ノーマの戦闘能力は高く、ジョブランクを『B』まで上げられる者は少ない。


 勇者たちは絶対にノーマの離脱を認めない。


 

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