デスモード

 エリスをベッドで休ませるが、ジャンヌは納得いかないような顔でセイを見る。


「おかしい」


「ん?」


「前からおかしいと思っていた。ヒールはまだ分かる。セイの圧倒的な魔力と無詠唱が出来るようになるまでヒールを使い続けたせいだろう」


「ジャンヌは何が分からないの?」


「セイの戦闘能力だ。さっき全力で走った時の速度は異常だった。私も身体強化を使えるが、治癒士は戦士のように身体強化を使えない」


 身体強化は魔力の質が戦士向きじゃなければ威力が落ちる。


 治癒士が身体強化を覚えても劣化戦士にしかならないのだ。


「俺が使っているのは身体強化だけじゃないぞ」


「わたくしも、聞きたいですわ」


「エリス、ダメ!寝てなきゃ!」


「わたくしは知りたいのですわ。セイの可能性を」


「分かった。ただしエリスはベッドで寝ながら聞いてくれ。それが飲めないんだったら話さない」


「分かりましたわ」


 みんなで寝室に移動した。


「俺の強化は身体強化だけじゃないって話だよな」


「言われてみれば、セイが戦っている時の魔力の質が良く分からないな」


「今から見せるぞ。ヒールを強く自分に使う事で体を活性化させることが出来る。こんなふうにな」


 俺は自身にヒールを使う。


「これで体を活性化させて身体能力を上げる」


「うーん、それじゃいつもと魔力の感じが違うよ」


「そうだな。俺は身体強化・ヒール強化・そしてバリア強化の3つを同時に使っている」


「バリア強化が分かりませんわ」


「バリア強化は俺の体にバリアを使って、俺自身の体を傀儡のように動かすんだ。それによって俺の体の動きをサポートする」


 何といえばわかりやすいか。そうだ!


「誰か力を抜いて寝ころんでみてくれ」


「私がやります!」


 サーラが素早く立候補し、寝ころぶ。


「わ、分かった。今からサーラにバリアを使ってサーラを動かすぞ」


「いつでもどうぞ!」


 サーラが人形のように動き出す。


「こんな感じで、バリアを体の表面につけて、体を動かすんだ」


「パワードスーツのようですわね」


「パワードスーツ?」


 アイラが首を傾げる。


「分かりやすく言うと、鎧型のゴーレムを着る事で、装備者の動きを強化する魔道具ですわ」


「それをバリアでやってるって事?」


「そうですわね」


「納得した。セイの動きの謎が解けた」


「凄すぎるよ!3つの技を同時に使ってるって事だよね!?」


「凄いですわ。セイはわたくしの希望ですの」

 エリスが涙を流す。


「え?ここ泣くところか?それにまだ終わりじゃないぞ」


「他にもあるんですか?」


「この技は力をセーブして使っている。全力で使うと、うまく制御できなくて周囲を巻き込むのと、」


 話の途中でドアが乱暴にノックされる。


「セイ!来てくれ!魔人が3体現れた!」


「そんな!1体だけでも大変なのに」


「分かった。すぐ行く」






 現場に向かうと、ガイと騎士隊長を中心に魔人と闘うが他の者はどんどん魔人にやられていく。


 3体の魔人は人の体に牛の角をはやしており、手には身の丈ほどもある斧を両手で構える。


 アイラがエリスをおんぶして全員でついて来た。


 今は誰が狙われても不思議ではないのだ。


「我ら魔人3兄弟に勝てると思うな」


「まだ戦えるっすよ」


「がははは!1撃で吹き飛ぶその力でか?」


 1体の魔人がガイに斧を振るう。


 ガイが盾で防ぐが、ガイが後ろに吹き飛ばされる。


 牛の魔人の筋力の高さがうかがえる。


 魔人が斧を横に振る度に冒険者や兵士がやられていく。


 早く倒す必要がある。


「ガイ!今から切り札を使う!巻き込まれないように離れていてくれ!」


 俺の言葉にガイはすぐ指示を出す。


「魔人とセイから離れるっすよおお!」


 俺はメイスを両手で構えた。

「デスモード!」


 身体強化・ヒール強化・バリア強化すべてを全力で使う。


 これが俺のもう一つの切り札、デスモード!


 自身への体の負担を考えず超高速で魔人に襲い掛かる。


 更に足場のバリアも俺を押し出すように発生させる。


 高速の連撃で魔人な体が歪む。


 だが俺の体もミシミシと悲鳴を上げ続けた。


 自身の傷ついた体を即座にヒールで癒しつつ連撃を続ける。


 3体の魔人は倒れ、ストレージからアイテムを吐き出す。


 皆が呆然と立ち尽くす。


 しばらくして歓声が聞こえる。


「凄いっすよ!そんな技があるならもっと使えばいいんすよ」


「この技はリスクが大きい。弱い魔物だと素材を回収できず、四散してしまうし、体への負担が大きい」


「でも、ヒールで治せるんじゃないっすか?」


「ヒールで治せるのは傷だけで、スタミナは治せない。デスモードは、スタミナをごっそり持っていかれるんだ」


「でも、インパクトボムっていう必殺技もあるんすよね?それと同時にデスモードを使えばあっという間に魔人を倒せると思うんすよ」


「使えない。同時に使うと多分俺の腕が無くなる」


「それは・・・・・使えないっすよね」


「ガイ、頼みがある」


「分かったっす」


「まだ内容を言ってないぞ」


「大丈夫っす。信頼してるっすよ」


「俺達は別行動を取りたい。今回3回人に襲われているんだ。魔人の素材はガイにプレゼントするぞ」


 今回の大討伐で分かった。魔人より人の方が厄介だと。


「お安い御用っすよ。ただ、魔人3体は貰いすぎっすよ」


「もらってくれ。最近新人教育を任せっきりになってるだろ。そのお詫びもかねてだ」


こうして俺達【ワールドヒーラー】は大討伐から離れ、キャンプ生活を始める。



 




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