ポーション不足を解決する④

 緑色の液体に満たされたカプセルの中にマリナが眠る。


 カプセルの効果で成長が止まっている。


 15才の見た目のままだ。


「マリナは今も元気か?」


「健康状態は良好だ」


 ジャンヌは俯く。


 責任を感じているんだろう。


 ジャンヌのせいではない。


 気にしなくていい。


 ジャンヌは俺を見つめる。


「セイ、チャンスを待て、力をつけ、準備を怠るな」


「ああ、分かってる」


 俺はしばらくカプセルを見つめた。


 定期的に目覚め、状態異常の魔法を使い、魔力が無くなると眠りにつく。


 まるで装置の歯車のように使われている。


 魔物を遠ざけるための生贄。


 アーティファクトの歯車にされたマリナ姉。


 俺の、初恋の人。


「セイ、会談を始めるぞ」


 俺は部屋を出る。


 扉が閉まるまでマリナ姉を見る。


 俺が助ける。



 俺は部屋に戻る。


 今はポーション問題だ。集中しよう!





 俺とジャンヌが戻ると会議が始まる。


 ジャンヌはすぐに切り出す。


「ポーション問題だな。結論から言うと、治癒士を冒険者ギルドの冒険者にして欲しい。そして冒険者ギルド側でポーションを生産、販売を出来るよう王に陳情もする」


 エリスは納得できないという顔をした。


「こちらは助かるのですがお心をお聞かせ下さいませ。この条件は治癒士ギルドに不利ですわ」


「今治癒士ギルドの治癒士は生活困窮者が多い。ヒールの供給過剰で治癒料金が下げ止まりし、治癒士が困窮しているのだ。そして治療費の半分をギルドが回収するがその資金のかなりの額が国の運営費となっている」


「なるほど、安く使われ、更に半分持っていかれるのですわね」


 これは宗教の問題だが、力を授かった者はみんなを助けるべきという神の教えがあり、更にそこに供給過剰が加わり治癒料金を上げられない。

 治癒士ギルドは教会も兼ねていて、治癒士は国民の模範となるべき立場だ。

 供給過剰の上に宗教上の理由で贅沢をせずみんなに尽くす事を求められる。

 治癒士ギルドはヒールの料金を中々上げられない構造になっているのだ。


 解決策はジャンヌの言う通り、治癒士ギルドから冒険者ギルドに移って働くことだ。

 これにより治癒院の『ヒール1回1000魔石』のルールに縛られず済む。


 治癒士ギルドの人が減れば、供給過剰問題も解決できる。


「その通りだ。そしてライガがポーションの供給を邪魔している。だから冒険者ギルドは私に相談し、仕方なく治癒士を冒険者ギルドに引き抜いている事を王家に報告して欲しい」


 俺は笑った。

「なるほど。王都を魔物から守り素材を供給する役割を持った冒険者ギルドが危機に瀕している。ライガがポーションを売らないせいでだ。このままでは魔物が溢れ、魔物の素材の供給が大幅に減る。民に尽くす為治癒士ギルドは冒険者ギルドの引き抜きに応じるしかないよな」


「そう言う事っすか。王家がライガを何とかしない限り冒険者ギルドは治癒士を引き抜き放題っすね」


 ジャンヌはワザとライガを止めていないのかもしれない。


 今ライガを抑えて問題を解決してもライガはまた形を変えて同じパターンで特殊な行動を起こす。


 問題をそのままにすることでライガの闇は色濃く映る。


 そしてそれを利用してライガの問題だけでなく治癒士の貧困問題すら解決しようとしているんだろう。


 ジャンヌは利権にとらわれず、国民の一人でも幸せになれるよう、原因の根本を取り除こうとしている。


 賢者ライガが権力を持っているのは昔の賢者が英雄だったからだ。


 だが今のライガは皆を困らせ足を引っ張る事しかしていない。


 光が見えてきたぞ!


「話は分かりましたわ。ガイ、新しく入った治癒士のお姉・・さんを連れて魔物狩りキャンプを行うことは出来ますわね?」


「任せるっす!」


「色々貴重なお話が聞けて良かったですわ」


「うむ、また何かあったらすぐ連絡を頼む」


「それでは失礼しますわ」


 こうして無事会談は終わった。





 ◇





 ポーション問題はすぐ解決に向かう。


 ポーションを冒険者ギルド側で作る件も認可が下りた。


 治癒士の引き抜きは成功し、多くの治癒士が冒険者ギルドの所属となる。


 ジャンヌも冒険者の魔物狩りキャンプに参加し、皆を助けた。


 俺は大量のポーションを製造する。


 水を満たされたポーションになる前のビンがずらりと並ぶ。


 俺が魔力を込めるとビンが光り、次々とポーションが出来上がる。


 その様子をエリスとサーラが見つめる。


「凄いですわね。こんなにたくさん!」


「無詠唱の大量生産はセイさんしか出来ません!」


 サーラは得意げに胸を張る。


「多くのポーション製造をしている方が冒険者ギルドに流れ、今度は騎士や兵士のポーションが不足しましたわ」


「治癒士ギルドの治癒士が今度は兵士として引き抜かれているようですね」


「この状態はしばらく続くだろうな」


 ライガの処分はまだだが、治癒士ギルドの力が小さくなれば、ライガが変なことをしても影響は小さくなる。


 ジャンヌはどう転んでもうまくいくようにしていたのかもな。


 治癒士が冒険者ギルドに来て、ポーションを製造するようになり、ポーション不足はしばらくすれば解消する。


 更にジャンヌは治癒士の戦闘訓練も行うようになった。


 今までポーション頼みだった冒険者も、治癒士を見直すようになってきている。


 そこにジャンヌがこっちに来る。


「大活躍みたいだな」


「何のことだ?」

 

 ジャンヌは良く分からないという顔をする。


「ジャンヌのおかげで治癒士が魔物狩りキャンプに参加するようになっただろ?」


「その事か、それはセイのおかげだぞ」


「セイのおかげですわね」


「セイのおかげです!」


 え?俺?俺は最近ポーションを作ってばかりだぞ。

 何もしていないはずだ。


「俺は何もしていないぞ」


 ジャンヌが俺の顔をじっと見る。


「ふむ、分かっていないようだな。まず魔物狩りキャンプの流れのきっかけはセイが魔物狩りキャンプを企画した為に始まった。つまりセイのおかげだ」


「企画しただけだぞ」


「最初に始めた者の功績は大きい。それだけではないのだ。セイがフェイズ3の魔物を倒しつつ皆を癒し続けたおかげで、治癒士のイメージが変わったのだ。今までの治癒士は冒険者にとってポーション供給をする弱き者という認識だったがそのイメージを覆したのがセイだ」


「それはジャンヌだろ?」


 戦う治癒士、そのイメージを定着させたのはジャンヌだ。


「確かに私はそのイメージで見られているが、それは私個人に対するもので、治癒士全体のイメージはあくまでポーションを作れる弱き者だった。冒険者にとって治癒士を魔物狩りに連れていく行為は愚かなものと考えられていたが、セイがサーラを助け、サーラは今では銃でサポート出来るまでとなっている。更にガイの嫁候補として多くの治癒士をガイの魔物狩りキャンプに同行させたことで、治癒士の弱いイメージは大分改善されている」


「今までなら治癒士を魔物狩りに連れていき戦士が魔物を倒すと、治癒士にも経験値が分配され、寄生虫のように思われていたのですわ。ですが、治癒士をパーティーに入れることで無料でヒールを使ってもらえ、更にセイが戦えることを証明したことで、治癒士をパーティーに入れる流れができましたの」


「それに、ガイが治癒士のお姉さんと仲良くしているのを見て、他の男性冒険者も真似してるんです」


 それってガイのおかげじゃないのか?

 後、治癒士の戦闘訓練はジャンヌとガイがやってるからガイとジャンヌのおかげ。

 サーラの銃サポートはサーラが頑張ったからだ。


「セイ、その顔はまだ分かっていませんのね。セイの手助けが無ければ今のように冒険者ギルドは活気づいていませんわ。今まで地道に新人冒険者を癒し、教育し、助け続けてきたセイが企画した魔物狩りキャンプだったからこそ皆言う事を聞くのですわ」


「そうですよ。他の人が魔物狩りキャンプを企画しても、ついてこないですよ。セイが言うから皆ついてくるんです」


「その通りだ。聞けば魔物狩りキャンプでは無料で治癒を続けていたそうだな。それがきっかけになって、治癒士を魔物狩りキャンプに組み込む流れが出来たのだ。ポーションよりヒールの方が安く治癒をしてもらえる。結果が分かれば単純な事だが、皆ポーションを持つ事が当たり前になっていた。その常識を破壊したのがセイなのだ」


 みんなぐいぐい来て距離が近い。


「わ、分かった」


 知らない間に、俺、感謝されてたのか?


 なんかうれしいな。


 治癒院にいた頃とは大違いだ。







 



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