「笑えばいいと思うよ」と倒れるまで【笑顔で回復魔法】を強要されるブラック治癒士ギルドを離れ、冒険者になったら、覚醒して、ハーレムまで作れたので、幸せすぎてどうしたらいいか分からない

ぐうのすけ

退職

「底辺ジョブの無能はこれだから困るのだよ」

 俺【セイ】が治癒院の退職を申し出ると上司のライガはしばらく説教を続けた。


 俺は、11才から15才になるまで王都の治癒院で働いていた。

 王都と言ってもこの世界【ノアワールド】には王都しか人の住む場所は無い。

 国も1つ、人の住む場所も1つしかないのでこの場所は王都と呼び、それ以外の名称が無いのだ。


「底辺ジョブの治癒士はいくらでもいる。早く辞めるのだよ!これからお前の顔を見なくて良くなるのだよ!」

 ライガの話が長い。

 そして早く辞めろと言われるがこっちは辞めると言っている。

 まだ話は終わらないのか?


 治癒士は底辺ジョブだ。

 理由は治癒士が多すぎて供給過剰になっている為だ。

 昔の治癒士は収入も高く、重宝されていたようだが今は治癒士の教育が整いすぎている為安いお金でヒールを使っている。


 更に少ない利益から半分は治癒士ギルドに持っていかれ新人治癒士の教育や運営維持に使われている。

 それは分かる。


 だがその上でライガに毎月『勉強代』を払わされる。

 更にヒールのノルマをライガに奪われる。


 しかも魔力が枯渇するまで魔法を使う事は壮絶な苦痛をもたらす。

 俺はヒールを使った後苦痛により数十回気絶した。


 本部にライガの行いを説明しに行っても取り合ってもらえない。


 本部もライガと話をしたくないのだ。

 取り合ってもらえない原因は2つある。


 1つはライガのジョブだ。


 ライガは気持ちよさそうに話を続ける。

「私のジョブは賢者、底辺治癒士のお前とはわけが違うのだよ。お前は無能の治癒士でこの私は賢者という素晴らしいジョブを持っているのだよ」


 ライガは賢者と言う特別なジョブで、勇者と並び最高のジョブと言われている。


 賢者のジョブは持っているだけで王家の人間と同じ地位を得るのだ。


 ただ、ライガは何故か賢者なのに治癒院にいる。


 冒険者や兵士になり戦い、治癒士ギルドを辞めてもらえれば助かるのだが、何故か治癒士ギルドにいる。


 噂では魔物と闘うのが怖いらしい。


 それにしてもライガの話が終わらない。


 もう一つのライガと関わりたくない原因がライガの特殊な行動と性格である。


 ライガにやられた特殊行動トップ3を発表したい。





【特殊行動その1】

 笑えばいいと思うよ事件である。


 俺の魔力が無くなり、休憩を訴えた時の事。


「もう魔力がありません。回復するまで休憩させてください」


「笑えばいいと思うよ」

 ん?意味が分からないぞ。

 ライガの意味不明発言はいつもの事だが、今回はいつにもまして意味が分からない。


「すいません。よく意味が分からなかったです。その心を教えて欲しいです」


 ライガはごみを見るような目で俺を見た後、あごをしゃくって壁を見せる。


 そこには【笑顔で回復魔法】という文字が書かれていた。


 まさか笑って回復魔法を使い続けろと言う意味か?

 休憩せず倒れるまで笑顔で回復魔法を使えと言う意味だろうか?

 魔力が無いから休ませてほしいという回答がこれか?


 賢者であるライガだって魔力が無くなれば魔法を使えないと思うぞ。

「えーと、」


「はあ、これだから無能の治癒士は困る。口で言わなければ分からない。だから無能なのだよ。」

 口で言ってくれないと分からないぞ。

 それにお前考え方が普通と違いすぎてて分かりにくい。


「笑って回復魔法を使っていればいいのだよ」

 そう言ってライガは手に電撃を纏わせる。

 周りに居た他の治癒士は目を逸らした。

 皆ライガと関わりたくないのだ。


 出た!電撃魔法!

 相手に言う事を利かせる為電撃魔法で脅しをかけてくるのだ。

 しかもライガはその魔力で回復魔法を使って働いているのを見た事が無い。

 賢者のジョブは様々な魔法を使えるはずなのだが、何故か回復魔法を使わず他の治癒士を脅して奴隷のように働かせるために電撃魔法を使ってくる。


 だが、俺は魔力が無い為回復魔法を使うことが出来ない。

 ここで引き下がるわけにはいかない。


「し、しかし」

 言い終わる前に俺は雷撃魔法を食らう。

「あがががががが!」

 俺はその場に倒れた。


 魔力が十分にあればライガの雷撃魔法に耐えることも出来たかもしれない。

 だが、俺は疲弊した状態で雷撃魔法を使われた。


 この件だけではなく、良く分からない理由で定期的に電撃を受けてきた。


 ライガは俺が疲弊して抵抗力を失った状態を狙いすましたかのように電撃魔法を使ってくる。


 ライガは他にもやらかしている。


 それにしてもライガの話が長い。







【特殊行動その2】

 ここは任せて私は帰るのだよ事件だ。


 治癒院が込み合い、パンク状態になった時の事。

 まだ午前の診療時間が残っている状態でライガは言った。


「ここは任せて私は帰るのだよ」

 ライガは治癒院を出ていった。

 ん?まだ診療が始まったばかりだが帰るのか?

 ここは任せて先に行けとかじゃないのか?

 結局ライガはその日帰ってこなかった。

 当然俺達は診療時間が終わってからもお客さんが残り、診療を続けた。

 事情をお客さんに説明すると怒り出す者も居たがライガは帰ってこない。ライガ、死ね!

 全員魔力が切れて回復を待ちながら診療を続け、その日の診療が終わるのは日付が変わった頃だった。


 ヒールの料金が安くなりすぎた為、肩がこるとかそういう理由でも診療者が治癒院を訪れるようになっているのだ。

 特権階級のおじいちゃんは、特に調子が悪くもないのに毎日ヒールを使ってもらいに来る。

 治療が目的ではなく、隣のお客さんと話をする為治癒院に来ているのだ。



 ライガは賢者と言う特権を利用して好きな時間に帰る。

 自身は回復魔法を一切使わず他の人のノルマを奪って自分の成果として報告している。


 当然本部もライガの行いは分かってはいるが、再三の呼び出しを受けても何も変わらないらしい。

 それどころか、

「完璧な私の事ではなく、本部の管理をしっかりする方に力を使うのだよ」

 と、良く分からない答えが返ってくるだけではなく、少しでも何か言われると機嫌が悪くなる。

 そして部下に電撃魔法を使ってさらにひどい結果を生む。

 電撃魔法の被害者は主に俺なのだが。


 賢者という王にさえ意見できる力を持ち自ら仕事をしない。

 もちろん有能な管理能力があれば良いのだが逆に効率を悪化させ治癒院の退職率を引き上げている厄介な存在なのだ。


 更に最後の特殊行動はひどかった。





【特殊行動その3】

 他の者はどうなってもいい事件だ。


 ライガと俺を含めた3人で治癒院の巡回診療に向かう途中。

 人の少なくなった道で6人の男に絡まれた。

「おい、金出せよ!」


 6人の男はナイフや鈍器を取り出し脅してきた。

 いかにも街の不良という格好で、盗賊のようにも見える。

 皆にやにやと笑い、余裕の表情を見せる。


 治癒士は戦闘能力が低い。

 治癒士が貧乏なのは分かっているが、奴らは安全に取れる所から金を取るのだ。


 ライガは叫ぶ。

「他の者はどうなってもいい!私を助けるのだよ!」

 そう言って俺の後ろに隠れる。


 さらに俺を思い切り押し出して絡んできた男にぶつける。

 そうした挙句、俺を陰にして電撃魔法を使い俺を巻き添えにして6人の男を一網打尽にした。


 絡んできた男は全員気絶する。

 後ろを振り返ると、俺を置き去りにしてライガは奇声を上げながら背を向け走り去っていた。



 そんなことを考えているとライガの話が終わる。


 やっと終わった。


 話が長かった。


「無能の治癒士はいくらでもいる。出ていくのだよ」

  終始人を見下す発言と自身の自慢話だったな。


「分かりました。お疲れ様です」


「待つのだよ!ローブと魔法の指輪を返すのだよ」


「ん?返却義務はないはずですが?」


「いいから置いていくのだよ」


 面倒だ。


 もう関わりたくない。


 ライガと話をしても意味が無い。


「分かりました、ただ、魔法の指輪は無くしています。」

 ライガには何度も指輪を無くしたから新しいのが欲しいと言ったが再三無視された。

 ライガは気づいていても反応しない人間なのだ。


 ライガは口角を釣り上げる。

「指輪が無い分は今月の給料全部で補填するのだよ」

 明らかにわざとやっているな。

 給料より指輪の方が安いはずだ。


 だが、もう関わりたくない。

「分かりました」


 こうして最後も嫌な思い出を残したまま治癒院を後にする。


 俺は冒険者ギルドに向かって歩いていく。



 セイはこの後、自身が無能ではなく、有能であるという事に気づき、出会いにも恵まれる。


 反対にセイを退職に追い込んだライガは様々な問題を起こし衰退していく。


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