その100、お好み焼きを返そう(1)

 鼻腔をくすぐる香ばしい匂い。じゅうじゅうと美味しそうな音。

 日曜の昼。父と私はいつものお好み焼き屋さん『袁紹えんしょう』でテーブルを囲んでいた。

 材料の入ったボウルを混ぜる。私はブタイカミックスだ。イカは外せない。

「混ぜないの?」

 自分のボウルを前に固まっている父に声を掛ける。

 料理上手の父が唯一苦手にしているのがお好み焼きだった。特に「返し」。それはもう、壊滅的に。

 ふう、と父が息をつく。

「今度こそ勝ってみせる」

 何の勝負だ。あと悲壮な顔やめれ。

「なんせ、今回でお好み焼き百回記念だ」

 ……記念?

「え、まさか子どもの頃から全部数えてるの?」

「いや、さっちゃんが生まれてから」

 なんだその基準。

 と、父の手がボウルに伸びた。

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