その63、仲直りしよう(5)

 月隠れ さはこそ凪がぬ 春闇に とにもかくにも あかず呼びける

 

 桜色の短冊には和歌が一首。父の手になるものだろう。よく分からないけど、兎にも角にも意気込みは伝わってくる。

 部屋を出ると、鼻先をお香の匂いがかすめた。出所は暗い廊下の先、居間のようだ。

 ふすまを開ける。窓に月、畳に平安貴族がいた。

「本当にかたじけないでおじゃる」

 着物の裾を整え、父が頭を下げる。

「なにとぞ片腹痛しをお治め下さい」

 と、包みが差し出された。

 兎舞堂のシュークリーム。

 決してそれに釣られたわけではない。むしろ、ここまでされて許さないわけがないだろう。

「うん」

 そういらえば、泣き笑いのような顔の父。たぶん、私も同じ顔だ。

 ――こっちこそ、ごめんね。

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