その22 左義長に行こう(前編)

 鼻につく煙の匂い。

 昼前の境内、大勢の人たちが火を囲んでいる。左義長さぎちょうだ。

「さっちゃーん」

 あ、ミカちゃんだ。隣でお姉さんも手を振っている。

「わ、かわいい」

 駆け寄って来た少女は、私の首元を見て声を上げた。もちろん黒猫のペンダントのことだ。えっへへ。

「お父さんのプレゼント」

 そう言うと、横で父が胸を張った。

「目の付けどころがシャープでしょ?」

 ……時々、父の言っていることが分からない。たぶん何かのネタなのだろうけど。

 私の薄い反応に、懲りもせず言葉を重ねる父。

「子どもの笑顔、プライスレス」

 いや、私もミカちゃんも困り顔だけど。

「なん……だと……」

 あ、泣きそう。

「行こ」

 慌ててミカちゃんの手を引く。

 何か、ごめん。

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