第十二話 銀狼❹

陽の光は様々な形の光線となって一面の枯葉の上を照らしている。


足を一歩前に動かす度、ちらちらと光の粒が舞い中空を漂う。


そこは、かつてセイの家だった場所。


全て始まり全てが終わった場所。


ふと、自分が呼吸をしていない事に気づいた。


急に息を吸ったためにむせて咳をする。


『目的を見失うな』


自分に強く言い聞かせ、セイは三年前この場所に置いてきたものを探した。


どこにどう置いたかセイ自身詳しく覚えておらず、手当たり次第家の中を散策する。たいして広くはないが時の流れと共に進んでいく崩壊が探索を難航させた。


本当に自分は姉の髪を取っておいたのか、疑心暗鬼になり始めた時だった。狼が袖口を噛んで引っ張る様にした。


何かあるのかと狼に引かれるままそろそろとついて行くと、その先に不自然に積まれた瓦礫があった。


瓦礫で四方を囲みその上に平たく大きな板を屋根のようにして乗せた小さな家の様な物。確か埃を被らない様に自分で乗っけたのだとセイはそれを見て思い出した。


自分の作っていたそれが、ウヤクと共に作った騎士達の墓に似ているように思えた。


上の板をどかすと、そこにはセイと同じ琥珀色の長い髪が見える。


セイの髪よりも細く、艶があり、良い匂いがする。匂いに関しては記憶から呼び起こされて錯覚しているのだろう。


セイはそれを取り、家を後にした。


帰る道すがらセイは改めて考えた。三年前なぜ自分が姉の髪を瓦礫で囲んだり屋根の代わりに板を乗せたりしたのか。


今思い返せば髪の毛など取って置いて何があるわけでもない。当時の混乱していた自分が咄嗟にした行動の意図など見当が付かなかった。他の村の人々に対して同じ事をしたわけではない。姉だけにした特別な事。


姉を失いたくないという思いがそうさせたのか。


姉が生きていると自分に錯覚させたかったのか。


恐らくそのどちらも違う。狼に姉の肉を食べさせた時、確実に、誠実に姉の死を受け入れたはずだ。


なら何故、何の為、姉の為、自分の為、、、。


『姉さん、見ていてくれ』


そう、確かあの時残骸となった村を出る時そう思った。


セイは湧き出るように当時の感情が蘇っていくのを感じた。


村で一番狩りの上手かった姉。その姉がいたという証を残したかった。そしてアレは憧れた姉に恥じない生き方をしてみせると誓いを立て、折れそうになった自分に檄を入れる為に作ったのだと、セイは自らを再認識した。


そして、確証は無いが理解できた気がした。ウヤクのやっていた事もきっと同じだ。


先人達の思いや生き方を引き継ぎ、更に次へと思いを託していく。それがウヤクの基。


それを理解した途端、何処からか微かに声がした。


「やっと会えたな、セイ」


声の出所は、すぐ近くにあった。


「三年で随分逞しくなったなお前」


聞き馴染みのある深く包容力のある森の様な声。


「姉さん、、、」


「ああ」


「、、、」


セイは膝をついてその場に崩れた。


「おいおい泣くなよ」


そう言いながら銀狼は震えるセイの肩に顔を擦り寄せた。

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