第530話


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「大森高校―――四番―――レフト――錦君―――」


 錦が右打席に立つ。

 佐伯が立ち上がる。

 ネクストバッターサークルの陸雄が打席を見る。


「やっぱ、錦先輩には敬遠か―――九衛の野郎この事態を先に知ってて、一塁で止まったな」


 陸雄が独り言をいう中で―――切間が次々とボール球を投げていく。

 四球目のボールが立ち上がった佐伯のミットに入る。


「―――ボールフォア!」


 球審が宣言する。

 錦がバットを捨てて、一塁にランニングする。

 九衛も二塁に移動する。


「さーて、なんとか切間相手に打ちたいところだぜ」


 陸雄が打席に移動する。


「大森高校―――五番―――ピッチャー、岸田君―――」


 陸雄が右打席に立つ。

 ボールを受け取った切間が構える。

 中野監督がサインを送る。

 陸雄が確認して、ヘルメットに指を当てる。

 佐伯がサインを出すも―――切間は頷きもしない。

 陸雄が構える。

 すぐに切間がセットポジションで投げ込む。

 指先からボールが離れる。

 外角低めにボールが飛んでいく。

 陸雄が見送る。

 佐伯のミットにボールが収まる。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。


「えっ? 入ってんの?」


 陸雄が声を漏らす。

 ストライクコースギリギリにストレートが入っていた。

 スコアボードに129キロの球速が表示される

 佐伯が返球する。

 陸雄が構え直す。

 捕球した切間が構える。

 少し間を置いて、投球モーションに入る。

 陸雄がジッと観察する。

 指先からボールが離れる。

 外角高めにボールが飛んでいく。

 陸雄がスイングする。

 打者手前でボールが右に曲がりながら落ちる。


「スラーブじゃなくて―――カーブ!?」


 バットの上をボールが通過する。

 佐伯のミットにボールが収まる。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに127キロの球速が表示される

 陸雄が空振り―――バットを戻す。

 佐伯が返球する。

 切間が捕球して、すぐに構える。

 そのままセットポジションで投げ込む。

 

(―――次はスラーブか?)


 陸雄がそう思い、ジッと観察する。

 指先からボールが離れる。

 内角やや低めにボールが飛んでいく。


「―――ストレート?」


 陸雄がスイングする。

 打者手前でボールが左に小さく曲がりながら落ちる。

 バットがボールの下に空振る―――。

 佐伯のミットにボールが収まる。


「―――ストライク! バッターアウト!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに132キロの球速が表示される


「くっそー! 三振かよ!」


 陸雄がベンチに戻っていく。

 佐伯が不満げに返球する。

 切間が意地悪そうに笑む。


(やっぱ俺の思うがままの投球が一番だって、はっきりわかるな)



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