第435話


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「大森高校―――九番―――ライト―――駒島君―――」


 駒島が右打席に立つ。


「ワシもまたスイッチヒッター。サウスポーだから左打席は古い考えじゃ」


 駒島がホームラン予告をする。

 スタンドから笑い声が聞こえる。


「人を信用できない哀れな観衆め……ワシのスーパーハインテンションマジモードを知らないな……」


 駒島が構える。

 山田がサインを送らずにミットを構える。

 速水が二塁の星川を目で牽制した後に打席を見る。

 そのまま投球モーションに入る。

 指先からボールが離れる。

 駒島が早めにスイングする。

 その球速とスイングのタイミングが偶然合う―――。

 そのまま真ん中高めのストレートをバットの軸で捉えた。


「「―――嘘! マジで当てた!」」


 ベンチの陸雄達が声を上げる。

 カキンッという金属音と共にボールが三遊間に飛ぶ。

 サードが横に飛んで打球をグローブで捕る。


「―――アウト! チェンジ!」


 審判が宣言する。

 スタンドがどよめく。


「偶然とはいえダメでしたか」


 二塁の星川がそう言って、ベンチに戻っていく。


「あの長野のキモデブ。真面目に一年の頃から練習すれば実はすごい打者になれたんじゃねぇのか?」


 ベンチの灰田が声を漏らす。


「フッ、考えすぎだ。ただの偶然だ―――」


 ベンチの紫崎がそう言って、グローブを着ける。

 六回の裏が終わり―――。

 点差は9対8のまま七回に入る。






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