弱小野球部の名誉挽回

第431話

　ハインが考え込む。

(ストレート二球だけ―――確かにそうだが、陸雄の調子が見にくいままだ。このままリクオに変化球を投げさせるのは多少のリスクががるか―――)

　ウグイス嬢のアナウンスが流れる。

「白石高校―――九番―――」

　九番打者が打席に立つ。

　ネクストバッターサークルに久遠寺が座り込む。

「マウンドの陸雄さん。どこか貫禄が出始めてますね。将来良い投手になりそうで―――成長過程にある今から僕と打席勝負が楽しみですよ」

　久遠寺がそう言うと速水の父親の監督がサインを送る。

　打者が頷いて、構える。

(リクオにまたストレートを投げさせるわけにもいかないか―――次から厳しくなるが、ここは―――)

　ハインがサインを送る。

　陸雄が頷いて、投球モーションに入る。

　久遠寺と打者がジッと観察する。

　指先からボールが離れる。

　真ん中高めにボールが飛んでいく。

　打者がスイングする。

「―――なっ！」

　九番打者が声を漏らす。

　打者手前でボールが右に曲がりながら落ちる。

　バットが上に空振り―――ハインのミットに収まる。

「―――ストライク！」

　球審が宣言する。

　スコアボードに１１９キロの球速が表示される。

　ネクストバッターサークルの久遠寺が声を漏らす。

「今のが陸雄さんのカーブですか―――なるほど―――」

　ハインがその間に返球する。

(リクオにまずはワンストライクを取らせたが―――調子が解りにくい状況だ。その証拠に要求してきた球速がやや遅めだった)

　陸雄が捕球する。

(やっとストライクが取れたぜ。今日はリリーフなんだ、頑張んねぇとな)

　陸雄が構える。

　九番打者がバットを構え直す。

　速水の監督が指示を出す。

　九番打者が頷く。

(ここでリクオにアレを投げさせるのは―――リスクは高いが、球速でカバー出来るはずだ)

　ハインがサインを送る。

　陸雄が頷いて、セットポジションに入る。

　そのまま指先からボールが離れる。

　内角低めにボールが飛んでいく。

　打者がスイングする。

　バットの軸にボールが当たる。

(またストレートを打たれた！)

　陸雄がビクッとする。

　ボールがカコンという金属音で内野フライに浮き上がる。

　セカンドの九衛が僅かに移動して、捕球体制に入る。

(フッ、ポテンヒットにはさせないだろうな)

　紫崎がそう思う頃には―――九衛のグローブにボールが入る。

「―――アウト！　チェンジ！」

　審判が宣言する。

「チェリー。俺様達の援護に感謝しろよ」

　九衛が送球する。

　陸雄が捕球して、マウンドにボールを置く。