第429話
「相手の投手は変える気がないみたいですね。今まで抑えか先発に使っていた速水君を完投させるのは訳があるとは思うのですが―――」
古川の言葉に中野監督が頷く。
「それだけ警戒しているということだ。投手を変えても速水以外はあまり目立った投手がいない。前の試合までの疲労もあるだろうしな」
「つまり変えない今回はそれだけ向こうが本気ということでしょうか?」
星川が質問する。
「おそらく速水を起用するにはスポーツ推薦の話もあるから、安易に変えられないのだろう」
中野監督がそう答えて、メンバーが納得する。
「フッ、野球受験というのも大変なのもだな。陸雄。しっかり勉強しておけよ」
紫崎が横目でニヤリと笑う。
「わ、解ってるってば! いつも夜に清香と勉強してるから平気だよ。今は野球の試合に勝つことだろ?」
灰田が想像したのか、陸雄に話す。
「夜の勉強って響きがエロいな。同じクラスの石渡と陸雄が昼休み時々話すのに夜は刺激的な勉強を…………」
「ああもう! 灰田! いらんこと考えるな。センターと打者だけに集中しろよ」
陸雄の言葉に中野監督の灰田の肩に手を当てる。
「そうだぞ朋也様。思春期なのは解るがそういうことは私のことだけ考えおけ! それがベストエンデイングなんだからな!」
「いや、中野……なんでそこでアプローチかけるんだよ……。ベストエンディングってギャルゲーじゃねーんだぞ!」
「ハジメ。ギャルゲーってなんだ?」
「んーとね~。詳しいことは灰田が知ってると思うよ~? ね~?」
松渡が横目で意地悪そうに笑む。
「アホたれ! んなこと、俺に聞くなよー!」
灰田の複雑な表情とメンバーのやり取りに大森高校もリラックスする。
古川が隣の席の錦を見る。
錦は黙って、グローブを着けてグラウンドを見ていた。
まるで自分は今までやれるだけのことを限られた時間でやってきた―――。
あとは試合で見せるだけだっと言っているような静かなオーラだった。
(錦君はいつも通り、か―――あの人の高校に当たって、試合で勝負できると良いね)
古川が目線を外して、スコアブックを確認していく。
トンボを持った二年達が帰ってくる。
「さぁ、六回表だ。一気にいくぞ!」
中野監督がメンバーに大きな声で士気を高めさせる。
陸雄が立ち上がる。
「さぁ! いよいよ俺の登板だぜ! 行こう! 行こうぜ、みんな!」
「「おうっ!」」
メンバー達がグラウンドに移動する。
トイレから帰って、何かを発散させてゲッソリした大城がグローブを着ける。
駒島は大きなあくびをして、大城と同じくグラウンドに向かった。
グラウンド整備が終わり―――試合が再開される。
※
「―――大森高校―――選手の交代をお知らせします―――」
ウグイス嬢のアナウンスが流れる。
マウンドに陸雄が立つ。
「ピッチャー、松渡君に変わりまして―――陸雄君―――」
ベンチの久遠寺が陸雄を見る。
「ここに来て、ついに出てきましたね。陸雄さん―――」
陸雄がハインと二球ほど投げ合って、構える。
ウグイス嬢のアナウンスが流れる。
「六回の表―――白石高校の攻撃です。―――七番―――」
七番打者が打席に立つ。
「相手の投手―――岸田陸雄とか言ったな。初球から調子づかせるわけにもいかん、。私も監督だ―――頼むぞ」
ベンチの速水の父親である監督がサインを送る。
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