第420話


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「白石高校―――五番―――」


 五番打者が打席に立つ。

 ハインが切り替えて、サインを送る。

 松渡が頷いて、構える。

 打者がバットを握りゆっくりと構える。


(悪い流れを点差で断ち切った。ここで俺が満塁にさせて、速水キャプテンをスクイズにさせ―――点差のリードを増やそう)


 松渡が投球モーションに入る。

 打者がジッと観察する。

 指先からボールが離れる。

 真ん中高めにボールが飛んでいく。


「チョコボール! 油断したな!」


 打者がフルスイングする。

 打者手前でボールが左に曲がりながら落ちていく。


「シュート? ―――しまった!」


 打者のバットの軸下にボールが当たる。

 ボールはファーストライナーに飛ぶ。

 星川が腰をかがめて、捕球体制に入る。

 そのままボールがグローブに入る。


「―――アウト!」


 塁審が宣言する。

 五番打者が悔し気に打席から離れる。


「くそっ! やっちまった! ツーアウトかよ」


「松渡君! あと一人で終わりです! 1点差くらい取り返しましょう!」


 星川がそう言って、送球する。

 松渡が捕球して、ほっこりとした笑顔を見せる。

 ベンチの中野監督が一息ついて、呟く。


「相手の打者の無意識に望む誘い球を上手く利用したか―――解っていても危ない賭けだったな、ハイン。理論ではなく心理を揺さぶった結果、か―――」


 それを聞いていた古川が黙って、スコアブックを書いていく。

 ベンチの外では坂崎がブルペンとなり、陸雄のストレートを受けていた。

 陸雄が試合を見ずに投球に集中していく。


(今の俺に出来るのはチームを信じて、肩を作って登板することだ。頼むぜ! みんな!)


 陸雄が坂崎からボールを捕球して、集中する。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「白石高校―――六番―――ピッチャー、速水君―――」


 速水が右打席に立つ。

 そのまま―――すぐにバットを構える。

 ハインがサインを送る。

 松渡が頷いて、投球モーションに入る。

 速水がジッと観察する。

 指先からボールが離れる。


(……ここで打ってこそのcaptain(キャプテン)さ……)


 速水がスイングする。

 真ん中高めにボールが飛んでいく。

 打者手前でボールが二個分落ちる。


「一個分余分に落ちない? ……冗談じゃねぇ……」


 バットの軸上にボールが当たる。

 打ち上げて内野フライになる。

 ショートの紫崎が捕球体制に入る。

 そのままボールがグローブに入る。


「―――アウト! チェンジ!」


 審判が宣言する。


「キャプテン―――ドンマイッ!」


 ベンチのレギュラーの野手が声を上げる。


「―――うるせぇ! そうさ……俺はimage(イメージ)してただけだ……だからフライになっちまった……」


「何を妄想して、打ってたんですか?」


 久遠寺が声を出す。

 速水が間髪入れずに答える。


「チアガール達のミニスカから除く黒のインナーパンツ……そこから出る太ももがエロい美少女をっ……ドギマギしてたのさ! それはboy(少年)にはgood(グッド) luck(ラック) vision(ビジョン)だろ?」


「キャプテン。早く童貞捨てて雑念を解いてくださいねー」


 久遠寺達の声と共に―――速水は黙り込んでベンチに戻る。



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