第388話
「灰田君! ここから取り返していきましょう!」
星川が灰田に送球する。
灰田がキャッチして、マウンドにボールを置く。
守備陣のメンバーがベンチに戻り―――。
残塁していた速水たちも三塁側ベンチに戻っていく。
二回表は3対7―――。
大森高校の劣勢で終わる。
※
ベンチに戻り、ハイン達が攻撃準備に入る時間―――。
灰田はグローブを外して、項垂れていた。
中野監督が灰田に近寄る。
「どうした朋也様? うつ病か?」
「今回だけじゃない―――ほとんど初球打ちで二回連続で一周された」
灰田の言葉に陸雄が黙り込む。
ハインはレガースを外し終えて、二人の話を聞く。
「朋也様。―――投手を辞めたくなったか?」
中野監督の言葉にメンバーが灰田を見る。
灰田が弱々しく返答する。
「中野。俺じゃあ役不足ですよ。ハインもそうだけど、どうしてストレートばかり投げさせる?」
「―――ハインに指示したのは他でもない私だ」
中野監督の言葉にメンバーが注目する。
「どうしてそんなことすんだよ? カーブ投げさせりゃ試合は変わってかもしれないのに!」
灰田が立ち上がって、中野監督を見る。
「朋也様は投手としての大事な課題を残しているからだ―――」
「課題? なんのこったよ?」
「残念だが、投手の問題は次の試合までお預けだ。次の守備からは松渡に変える」
「こんな気持ちのままセンターに戻れってのかよ。投手として俺は足手まといじゃないか?」
中野監督は表情を変えずに灰田の肩に手を置く。
「今は切り替えろ―――これからの課題を解決云々よりも負けるぞ」
中野監督の目は灰田に何かを期待しているようにも見えた。
「…………はい」
灰田が力ない声で答えた。
「次は打席だ。しっかり打ってこい」
メンバー達が攻撃準備に入る。
灰田がバットをケースから取り出す。
守備位置に着いていく白石高校を見る。
灰田の横顔を見ながら、中野監督は表情を変えずに腕を組む。
(追い込まれなきゃ朋也様は投手として本当に成長しないんだ。そして変化球の有難みを知るんだ。この試合でつけさせるつもりだったが、難しいか―――)
駒島と大城がグローブを投げ捨てて、給水機の水をガブガブッと飲んでいく。
「みんな―――二回裏が始まるよ」
スコアブックを書き終えた古川がメンバーにそう話す。
「「はいっ!」」
陸雄達が声を上げる。
「メンソーレ! 本来それ言うの監督の仕事じゃいのかサー?
「宮古島の沖縄マントヒヒは空気読め」
九衛がそう言って、睨む。
大城はプルプル震えながら、眉間にしわを寄せつつも怒れずに黙り込む。
※
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