第388話


「灰田君! ここから取り返していきましょう!」


 星川が灰田に送球する。

 灰田がキャッチして、マウンドにボールを置く。

 守備陣のメンバーがベンチに戻り―――。

 残塁していた速水たちも三塁側ベンチに戻っていく。

 二回表は3対7―――。

 大森高校の劣勢で終わる。



 ベンチに戻り、ハイン達が攻撃準備に入る時間―――。

 灰田はグローブを外して、項垂れていた。

 中野監督が灰田に近寄る。


「どうした朋也様? うつ病か?」


「今回だけじゃない―――ほとんど初球打ちで二回連続で一周された」


 灰田の言葉に陸雄が黙り込む。

 ハインはレガースを外し終えて、二人の話を聞く。


「朋也様。―――投手を辞めたくなったか?」


 中野監督の言葉にメンバーが灰田を見る。

 灰田が弱々しく返答する。


「中野。俺じゃあ役不足ですよ。ハインもそうだけど、どうしてストレートばかり投げさせる?」


「―――ハインに指示したのは他でもない私だ」


 中野監督の言葉にメンバーが注目する。


「どうしてそんなことすんだよ? カーブ投げさせりゃ試合は変わってかもしれないのに!」


 灰田が立ち上がって、中野監督を見る。


「朋也様は投手としての大事な課題を残しているからだ―――」


「課題? なんのこったよ?」


「残念だが、投手の問題は次の試合までお預けだ。次の守備からは松渡に変える」


「こんな気持ちのままセンターに戻れってのかよ。投手として俺は足手まといじゃないか?」


 中野監督は表情を変えずに灰田の肩に手を置く。


「今は切り替えろ―――これからの課題を解決云々よりも負けるぞ」


 中野監督の目は灰田に何かを期待しているようにも見えた。


「…………はい」


 灰田が力ない声で答えた。


「次は打席だ。しっかり打ってこい」


 メンバー達が攻撃準備に入る。

 灰田がバットをケースから取り出す。

 守備位置に着いていく白石高校を見る。

 灰田の横顔を見ながら、中野監督は表情を変えずに腕を組む。


(追い込まれなきゃ朋也様は投手として本当に成長しないんだ。そして変化球の有難みを知るんだ。この試合でつけさせるつもりだったが、難しいか―――)


 駒島と大城がグローブを投げ捨てて、給水機の水をガブガブッと飲んでいく。


「みんな―――二回裏が始まるよ」


 スコアブックを書き終えた古川がメンバーにそう話す。


「「はいっ!」」


 陸雄達が声を上げる。


「メンソーレ! 本来それ言うの監督の仕事じゃいのかサー?


「宮古島の沖縄マントヒヒは空気読め」


 九衛がそう言って、睨む。

 大城はプルプル震えながら、眉間にしわを寄せつつも怒れずに黙り込む。



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