第383話


 灰田が捕球して、背中を向ける。


(カーブを投げたい。けどストレートだけじゃなくカーブも打たれるんじゃないのか?)


 灰田が焦る中でウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「白石高校―――三番―――」


 三番打者が打席に立つ。

 ハインがサインを送る。


(俺は信じるしかない。けどピッチャーには首を振る権利がある。首を振って―――どうする? チクショウ!)


 灰田が頷いて、クイックモーションで投げ込む。

 指先からボールが離れる。

 内角低めにボールが飛んでいく。

 三番打者がフルスイングする。


「あっ!」


 灰田が声を漏らした時には―――。

 バットの軸にボールが当たる。

 カキンッという金属音と共にボールが低く飛ぶ。

 三遊間に飛ぶボールをショートの紫崎が横に飛ぶ。

 久遠寺は走らない。

 そのまま紫崎のグローブにボールが落ちることなく入る。


「―――アウト!」


 審判が宣言する。

 ベンチの陸雄が喜ぶ。


「紫崎! ナイス援護! これでワンアウトだぜ」


 紫崎が捕球したまま立ちあがる。


「フッ、灰田。一度も打たれない投手はいない―――気にすることもない」


 そう言って、灰田に送球する。

 灰田がボールを受け取り、一息つく。


「わりー紫崎。言葉で返すよりも俺なりに頑張ってプレイで返すよ」


 そう言って、灰田は打席を見る。

 ハインは座り込んだままミットを構える。


「バッテリーだからこそ、投手の俺もハインに答えなきゃいけない。まず制球力を意識しよう」


 灰田がボソリとそう言って、構える。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「白石高校―――四番―――キャッチャー。山田君―――」


 山田が右打席に立つ。


「捕手のリードは速水任せだけど、打者としてなら俺は自分の実力だけか全てであり、頼りになるものじゃんか!」


 三塁の久遠寺がクスッと笑う。


「山田先輩なら僕をベンチに返してくれるな」


 サードの大城が鼻くそをほじりながら、聞き流す。

 四番の山田が構える。

 ハインがサインを送る。

 灰田が少し考え込んで、頷く。

 そのままクイックモーションで投げ込む。

 指先からボールが離れる。

 内角高めにボールが飛んでいく。


「インコースで打てないと過信してるじゃんか!」


 山田がタイミングを合わせて、スイングする。

 バットの軸にボールが当たる。


「くっ! また打たれた!」


 灰田が悔し気な表情をする。

 ボールは投手の上空に飛んでいく。

 三塁の久遠寺が走る。

 一塁ランナーも二塁に走り込む。

 打者の山田はバットを捨てて、一塁に走る。

 センターの九衛が後ろに走って、ボールの落下位置を予想する。

 観客席のないスコアボードと芝生だけの緑色の壁にぶつかり、ボールが落ちた時―――。

 久遠寺がホームベースを踏む。


「追加点いただきますよ」


 そう言って、久遠寺がベンチに戻る。

 5点目がこの時に入る。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る