第380話


(ここで変化球中心でいくじゃんか?)


 捕手の山田がサインを送る。


「……そうさ……わかってるじゃないか……俺達の意思がsynchronize(シンクロ)してるさ……」


 速水が頷いて、投球モーションに入る。

 星川がジッと観察する。

 やがて指先からボールが離れる。

 リリース直後にボールが大きく落ちる。


(パームボールですね! 真伊已君の時とは違う軌道だけど―――)


 ボールが揺れながら外角低めに飛んでいく。

 星川が見送り―――山田のミットにボールが収まる。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに107キロの球速が表示される。


(速水。ナイスじゃんか!)


 山田が返球する。

 速水が捕球する。


(そうさ……battery(バッテリー)として……俺達はこんなにも分かり合える……)


 星川が一息ついて、構え直す。

 山田がサインを送る。

 速水が頷く。

 そしてサウスポー独特のフォームで投球モーションに入る。

 星川がジッと観察する。

 指先からボールが離れる。

 外角高めにボールが飛んでいく。


(早い! だけど―――僕だって!)


 星川がタイミングを合わせて、スイングする。

 打者手前でボールが左に急激に落ちる。

 バットの下を掠めて、捕手のミットに入る。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 ―――スクリューだった。

 スコアボードに130キロの球速が表示される。


(このまま抑えにじゃんじゃん行くじゃんか!)


 山田が返球する。

 速水が捕球する。

 星川が振ったバットを戻して、構え直す。

 中野監督が肩の力を抜く。


「それで良いんだ。星川……スクリューを投げさせることに今後のイニングで楽になっていく」


 中野監督がそう言って、星川を見る。

 メンバーには中野監督の思惑が理解できなかった。

 しかしどこか自信のある言葉の数々に名将の面影が見える。

 打席に戻り―――。

 山田がサインを送る。

 速水が首を振ったので、好きに投げろとミットを山田が構える。

 星川がジッと観察する。

 速水が投球モーションに入る。

 そして指先からボールが離れる。

 ボールは真ん中に真っ直ぐ飛んでいく。

 星川がタイミングを合わせて、スイングする。

 打者手前でボールが左に浮いてから落ちていく。

 ボールがバットの下を通過する。

 そのまま山田のミットに収まる。


「―――ストライク! バッターアウト! ―――チェンジ!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに112キロの球速が表示される。


「初球はパームボールで二球目はスクリュー。最後シンカーでしたかー。やられちゃいましたね」


 星川がバットをもったままベンチに移動する。



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