第260話

 スイングしたバットはかすかにボールに触れる。

 ハインがミットを動かして、バットにより軌道が変化したボールを捕る。

 ファウルチップだった。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 ―――ファウルチップ。

 スイングしたバットがかすかにボールに触れ、鋭く捕手の手かミットに飛んできて―――正規に捕球されたもの。

 捕球されなければファウルチップではなくなる。

 ファウルチップはストライクでボールインプレイ。

 この打球が直接捕手の手かミットに触れれば―――跳ね返ったものでも、地面に落ちる前に捕球すればファウルチップ扱いになる。

 つまり―――バットにはボールは掠めたが、ストライクとなる


「あ、危なかった。何だよ―――ビビることはねーじゃんか」


 灰田が安堵の顔を見せる。


(フッ、ハインの捕手としての捕球能力の高さに救われた形か―――やはりあいつは投手をカバーできる優秀な捕手だな)


 紫崎が構えを解いて、腰を上げる。

 スコアボードに119キロの球速が表示される。

 ハインが返球する。

 灰田が落ち着いたのか、キャッチしてすぐに構える。


(チームには少し酷だが、トモヤの目を覚まさせるのはまだ足りないな。度胸を付けさせるか―――)


 ハインがサインを送る。

 そのサインに灰田がギョッとする。


(正気かよ! そこに投げろって、無理あるぜ? せっかくストライク取れたのに―――ハインの奴、何考えてんだよ?)


 灰田が首を振る。

 ハインはサインを出さない。


(無理かよ。それなら少しでも球速を上げるか―――)


 灰田が頷いて、投球モーションに入る。

 すぐに指先からボールが離れる。

 四番打者がジッと見る。


(―――これは!?)



 四番打者がハッとして、タイミングを合わせる。

 真ん中に真っ直ぐとボールが飛んでいく。

 打者手前に来た時―――四番打者がフルスイングする。

 バットの芯にボールが当たる。

 四番打者が力を入れて、ボールを飛ばす。。

 カキンッという金属音と共にボールが飛んでいく。

 ボールはライト方向に飛んでいく。

 ライトの駒島がくしゃみをすると、上空にボールが通過していく。


「むむっ! 今のワシの野球センサーが反応した」


 駒島が後ろをゆっくりと振り向く。

 ボールがライトオーバーしていく。

 九衛が走るのを途中でやめる。

 無人の場所のスタンドにボールが入ったからだ。


「ふむ、ワシの無駄な動きを極力させるホームランセンサーは今日も安定しているようだな」


 駒島の独り言とはまた別に―――。

 そして多くの人がいるスタンドから歓声が上がる

 ―――ホームラン。

 その事実に灰田が歯ぎしりをする。


「っち! 大差になっちまった」


 灰田が俯いて、マウンドの地面を見る。

 打者を含めた三人がそれぞれ類を踏んでいく。

 最後の打者がホームベースを踏んで3点入る。

 この時点で淳爛高等学校は8点目となる。

 大森高校とは4点差で優勢だった。

 淳爛高等学校のベンチは歓喜のあまり盛り上がっていた。

 そんな中で―――。


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