第231話

 センターの九衞が軽く屈伸する。


「まっ、チンピラ野郎ほどじゃないが、練習以外に外野守備もシニアで時々やってたし―――援護してやっかぁ」


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「それでは一回表―――淳爛高等学校の攻撃。一番、ショート―――張元君―――」


 左打席に金属バットを持った張元が入る。


「―――プレイ!」


 審判が宣言する。

 張元がバットを構える。


「ハイン君―――君の愛の為にも俺は勝ってみせるよ―――」


 張元の打席越しでの告白だった。


「…………」


 ハインが無視して、灰田にサインを送る。


(マジかよ。そこに投げるのか? ったく、首振る訳にもいかねーか)


 灰田がクイックモーションで投げ込む。


「むっ! 投球が早い!」


 張元がハッとして言葉を漏らす。

 ―――クイックモーション。

 前足を上げるのと同時に軸足を曲げてすぐに体重を移動さる対盗塁用のフォーム。

 投球時間を短くすることが目的の投げ方である。

 捕手のほぼ真ん中にストレートが飛ぶ。


(一番打者の仕事は―――最初に相手の投球の球数を出来るだけ見せてやることだ。チームの為にもな)


 打者の張元はその考えから一球を様子見する。

 ハインのミットにボールが収まる。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに128キロの球速が表示される。

 張元がバットの先端と握る場所をそれぞれ両手で掴む。

 そしてバットと共に高らかに伸びをする。

 ハインがその間に返球する。


「なるほど―――クイックだが、制球力はまずまずだな」


 張元がそう呟き―――バットを両手で場所に直す。

 クイックモーションは、セットポジションよりもさらに球威は落ちる。。

 また、投げ方をしっかり練習しないと、コントロールも悪くなってしまう。

 しかし―――中野監督が教え込んだ練習で制球力はある程度改善されていた。

 ハインの肩と灰田のクイックがあれば盗塁の可能性を大幅に減らしてくる。

 その考えから灰田のフォームは改造された。

 灰田が捕球する。


(全力ストレートで128キロか―――成長期ってすげぇな。昔は110キロ代の天才小学生投手って言われてたけど、中学時代サボってもこんだけ戻るのか……)


 灰田に落ち着きと力が戻って来る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る