第226話

 中野監督がメンバーに話す。


「真伊已にはスローカーブもある。その際の球速は105キロ代だが、普通のカーブは120キロ代だ。ストレートとほぼ同じ球速でカーブを投げるし、不規則なパームボールと混ぜてスローカーブを投げる。制球力も普通で、今大会では四球は一つだけだ。優秀な投手であることに違いない」


 中野監督が古川を見て、頷く。

 古川が説明を再度続ける。


「次に注目される打者ですが、張元悠作(はりもとゆうさく)君は足が速いです。一回戦も二回戦もショートで左打ちの一番打者です。今回も一番打者で出塁を狙って来ると思います。相手校のキャプテンの打力もかなり高いです―――四番で打席に立つでしょう」


 古川の説明の中で―――投手の一人である松渡が肩の力を抜く。


(前々から練習後に、中野監督が今回の相手校の打率は全体でもちょっと高いって、言ってたっけ~。今までの様にコールドで勝つことは厳しいかもね~)


「今回の二回分の試合とあの偵察のデータ見る限りじゃ、そいつは外角も結構打ってるよな? 先発投手の俺と一番打者で当たるだろうから、復帰相手にしちゃキツイな」


 灰田がボヤく。

 中野監督がその言葉を聞いて、ジッと見る。


「睨むなよ、中野。情けないこと言うなだろ? 敵もどんどん強くなるからしっかりやるべきことやるよ」


 中野監督がそれを聞いて、ニコリと微笑む。

 古川が説明を気にせずに続ける。


「投手の防御率もそうですが、野手の守備面でも兵庫全体のレベルから見ても平均より上です。全体的にバランスの取れたチームです、―――説明は以上です」


 古川が席に座り込む。


「古川。説明ご苦労だった。お前達、相手校の情報は聞いた通りだ」


 中野監督が立ち上がったまま、メンバーに話す。


「守備面でこちらに一部不安があるが―――それ以外はウチのチームが上であることは間違いない。だが、兵庫四強はその上を行く―――ここで勝てないようじゃ来年も厳しいだろう」


 メンバーに僅かな安堵とやる気が出てくる。

 かつての名将は言葉を続ける。


「あと六回勝てば、甲子園出場だ。甲子園で同じく六回勝てば―――優勝旗を持って帰れる。ここからが一回戦だと思って、気持ちを切り替えろ。私を信じてついてこい」


 メンバーが頷く。

 バスが駐車場に止まる。


「よし! 全員降りろ! 試合が始まるまで軽く運動しておけ!」


「「はいっ!」」


 メンバー達が声をあげて、バスから順に降りていく。


(県大会は残り六回分の試合だ。その六回分が甲子園と同じ試合数―――ここからが本番なんだ―――!)


 胃のイラつきが和らいだ陸雄が―――そう思って、最後にバスを降りる。



 バスを降りて、短い移動時間を経て―――。

 大森高校のメンバーと淳爛高等学校のメンバーが市民球場に集まる。

 球場前のハインと陸雄の所に二人の選手がやって来る。

 二人とも敬意を払ってか、止まって―――帽子を脱ぐ。

 スパイラルパーマとマンバンヘアの髪型の二人だった。


「どうやらここまで来たみたいですね」


 マンバンヘアの真伊已が陸雄を見て、そう言う。


「お前を倒して―――俺は次の試合に進む」


 陸雄は腹の痛みを忘れて、言葉に闘志を乗せて言い放つ。




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