第188話
隣を歩く清香も足を止めて、話す。
「どうしたの? 家電製品のゲームソフトコーナーも割引だと思って、行きたいの?」
「いや、そうじゃないけどさ。清香。ちょっとだけ商店街に寄って行ってもいいか?」
「陸雄のお母さんに買い物でも頼まれたの?」
「いや、期末テストの勉強への前祝いで清香にケーキとシュークリーム買ってくっからさ」
それを聞いて、清香がクスッと笑う。
可愛らしい表情に陸雄がドキッとする。
「なるほどねー。それなら、いいよー♪ 今日は私の家で勉強しよっか」
「お、おう。じゃあ一緒にケーキ屋行くか?」
「お金大丈夫なの?」
「だ、大丈夫余裕で足りるからさ」
(ほんとは買い終えたらコンビニのうますぎ棒も買えなくなる残金になっけど、しゃーねぇな。許せハイン。あとで埋め合わせすっからな)
陸雄達はケーキ屋に向かう。
活気のある商店街で人が行き交う。
どの店もセール中というポップがある。
陸雄達は小さなケーキ屋に入っていく。
「清香の家に上がるの中学三年以来だな。五か月ぶりかぁ」
「久しぶりに家に入るから、私のお母さんも喜ぶと思うよ」
その後に陸雄はケーキ屋でケーキとシュークリームを購入した。
※
陸雄達が商店街で買い物を終えた頃―――。
紫崎は灰田と駅前で別れて、一人家路に着いていた。
二階建ての実家を見上げる。
(まだ誰も帰ってないか―――母さんは今日も図書館で司書の仕事があるだろうしな)
紫崎は寂し気に鍵を開ける。
紫崎の母親は図書館の司書をしており、父親は国家公務員の仕事をしている。
紫崎が国家公務員にこだわる理由は父親にあった。
練習で帰る頃には両親は大抵は家にいるのだが、野球をしてからは話す時間が減っていった。
それでも収入は安定しており、定時帰りが多い父とは夜によく話した。
ドアを閉めて、玄関に入る。
(フッ、久しぶりに夕方ごろに帰ったが家に一人とは寂しいものだな)
鍵を閉めた紫崎が洗面所に行く。
(帰りに話した灰田は一人暮らしをしているが、こういう寂しい気分で家に帰っているのかもな)
そう思いつつ―――手洗いうがいを済ませて、制服を脱ぐ。
夕方終わりに紫崎は風呂場で入浴の準備をする。
風呂場の前にある電子機器を操作して、浴槽にお湯を入れていく。
そのまま紫崎は二階に上がっていく。
二階には紫崎の部屋と寮生活でいなくなった兄の空き室が並んでいた。
紫崎は兄の部屋のドア前を切なげに見る。
「フッ、ハインには事前に言っておいたが―――兄貴の目を俺は試合で覚ますことが出来るか? それが俺からの最後のきっかけか」
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