第156話


「―――西晋高校、一番―――」


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。

 一番打者が打席に立つ。

 西晋高校の監督がサインを送る。

 二番打者が頷く。

 そしてバットを構える。


「―――プレイ!」


 審判が宣言する。

 ハインがサインを送る。

 松渡が頷いて、投球モーションに入る。

 一番打者が何かを狙っているようにジッと観察する。

 指先からボールが離れる。

 内角高めにボールが飛んでいく。

 バットを振らずに見送る。

 ハインのミットにボールが収まる。


「―――ボール!」


 球審が宣言する。

 ストライクゾーンより上の誘い球だった。

 スコアボードに111キロの球速が表示される。


(初球の遅めの誘い球を振ってこないか―――なら次は―――)


 ハインが返球する。

 松渡がキャッチする。

 相手の打者はバットをあまり動かさずに構えを解かない。

 ハインがサインを送る。

 松渡が頷いて、二球目を投げ込む。

 外角低めにボールが飛ぶ。

 打者は一瞬ピクリと体が反応するが、バットを振らない。

 ハインのミットにボールが収まる。

 ストレートを相手の打者が見送った。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに130キロの球速が表示される。

 ハインが返球する。


(緩急のあるストレート二球だったとはいえ、振ってこないのは何故だ? 流石に中盤戦だ。慣れもあるはずだが……)


 松渡がボールをキャッチする。

 ロージンバッグで投げる手を滑り止めする。

 ハインがサインを送る。

 松渡が頷いて、投球モーションに入る。

 相手の打者がジッと観察する。

 ワンボール、ワンストライクの状況。

 指先からボールが離れる。

 外角真ん中にボールが飛んでいく。

 相手の打者がフルスイングする。

 ボールが二個分落ちる位置にバットが当たる。


「何っ―――!」


 ハインが声を漏らした時には―――ボールが右中間に飛んでいた。

 一番打者がバットを捨てて、一塁に走る。

 ライトの駒島は―――左手前にバウンドしたボールをボケっと眺めていた。


「トモヤ! ひとつだっ! ふたつはないっ!」


 ハインが立ち上がって、声を出す。

 センターの灰田がボールを追って、走る。


「ああっ! クソッ! ツーベースさせる訳にはいかねぇ!」


 灰田がボールを拾って、一塁に投げる。

 ライトとファーストのほぼ中間の位置でボールが投げられる。

 ファーストの星川が塁を踏んだまま、捕球する。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。

 届いた頃には一番打者が既に塁を蹴っていた。

 西晋高校のベンチの監督が腕を組んで笑う。


「ふっふっふっ! やはり投げたか。緩急のあるストレートよりも変化球のフォークボールに的を絞っておけば、あのキャッチャーが投げることも予測済みだ。ウチの上位打線なら流石に目が慣れ始めていた頃だからな」


 戸枝がそれを聞いて、少しだけ安堵する。


(監督の采配どうりならジェイクで取り返せる。負けたわけじゃねぇ!)


 戸枝がベンチに座りながら、拳をグッと握る。


「西晋高校―――二番―――」


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。

 二番打者が打席に立つ。

 西晋高校の監督が先ほどと同じサインを送る。

 二番打者が頷く。



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