第82話 目覚めればそこは…
「どうだ?やはり俺が用意した馬車は安全にお前を送り届けることが出来ただろう?」
馬車を降りた私にベルナルド王子は腕組みしながら自慢げに言う。
「はい、ありがとうございます」
私は口先だけのお礼を述べた。
「それではベルナルド王子、今夜こそしっかり、きっかり婚約解消の話を陛下にして下さいね?」
「う、うむ…」
言いよどむベルナルド王子。
「あ、それなら安心して?私の方からお父様に話しておいてあげるから」
すっかり打ち解けた様子で私に話しかけてくるテレシア王女。
「おいっ?!俺を裏切るつもりか?!」
ベルナルド王子がテレシア王女を見る。…裏切る?一体どういう意味だろう?
「宜しくおねがいします。テレシア王女」
頭を下げると王女は言った。
「あ〜、王女なんて言わなくていいから。それにかしこまった言い方もやめてくれる?私、周囲の人達に自分が王女だって知られたくないのよ。平民魂が染み付いているから。今まで通り接して貰えればそれでいいから」
「あ、はい。それじゃ宜しく、テレシア」
「さ、それじゃ行くわよ、ベルナルド王子。早い所城に帰ってお父様に婚約破棄の事を伝えなくちゃならないのだから」
「おいっ?!俺はまだその話を承諾なんかしていないぞっ?!」
「ほら、早く帰るわよ!」
テレシアは無理やりベルナルド王子の背中を押して馬車に乗せると言った。
「それじゃユリアさん。また明日、学校でね」
「え?ええ…また明日」
するとテレシアはニッコリ笑い、バタンと扉を占めると馬車はガラガラ音を立てて走り去って行った。
「本当に…今日は驚きの連続だったわ」
まさかベルナルド王子とテレシアが腹違いの兄妹だったのだから。
「…屋敷に入りましょう」
ポツリと呟くと私は屋敷の中へと入って行った―。
****
19時―
今夜は父と2人だけの食事だった。
「あの…お父様」
「うん、何だ」
ナイフを動かしながら父が返事をする。
「お兄様方はどうされたのですか?姿が見えませんけど…」
「ああ、あの2人ならもう帰ったぞ」
「えっ?!帰ったっ?!」
「ああ。何でももう確認する事は終わったから帰るとか訳の分からない事を言って帰ってしまったのだ」
「そう…なのですか…?」
呆気に取られながら私は返事をした。それにしてもあの2人の兄があっさり帰っていくとは…。性格が変わっても私がユリアであることに代わり無い事を確認できたから帰っていったのだろうか?でもあの2人がいなくなったのであれば安心してこの屋敷で暮らしていける。
「今夜の夕食は特に美味しいですねぇ?」
私は父に話しかけ…上機嫌で食事を進めた―。
****
いつもの日課の勉強も終え、お風呂から上がってきた。
「ふぅ〜…いいお湯だったわ」
そして新しくなった部屋を満足そうに見渡した。実は本日帰宅した後、この部屋は落ち着かないから他の部屋に変えて欲しいと訴えたのだ。今度の部屋は落ち着いた色合いのベージュの壁紙に天井は白い壁紙、床は板張りの部屋になっている。
「うん、この部屋なら落ち着いて過ごせるわ」
私はバルコニーから窓の外を眺めた。夜空には大きな美しい満月が浮かんでいる。
「綺麗な満月ね〜…月見酒に日本酒を飲みたい気分だわ…」
そこまで言いかけて疑問に思った。
え?日本酒って何?
一瞬、私の脳裏にありえない記憶が蘇る。大勢の人が賑わうお店でお酒を飲んでいる場面が…。しかし、それはほんの一瞬の出来事ですぐに私の記憶から消えてしまった。
「…何か今思い出しかけた気がするのだけどな…。もういいわ、考えても仕方ないし…寝ましょう」
そして私はベッドに潜り込んで目を閉じた―。
ホーッ…
ホーッ…
寒い…何処かで鳥の様な鳴き声が聞こえる…。
「う〜ん…」
身体を動かした時…。
カサッ…
草が私の鼻に触れた。
え…?草?
慌てて身体を起こすと、そこは見知らぬ森の中だった。大きな満月の月明かりのお陰でここが森だということに気がついたのだ。
「う、嘘っ!ど、どうしてこんな所に…。私…。ベッドに入って眠ったはずなのに…?」
それにしても寒い。何て寒さだろう?
「さ、寒い…っ」
薄いパジャマ姿に裸足の状態なので寒くてたまらない。
その時―
「あ〜あ…もう目が覚めちゃったのか…」
背後で声が聞こえた。
「えっ?!」
驚いて振り向き…。
「う、嘘でしょう…?」
私は目を見開いた―。
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