第80話 意外な関係
ガラガラと町中を音を立てて走り続ける馬車。
一体、この状況は何なのだろう…?
「「「…」」」
馬車の中は奇妙な沈黙に満ちていた。
ベルナルド王子は膝を組み腕を組んで私をじっと凝視しているし、ベルナルド王子の隣に座るテレシアはふくれっ面で腕を組んで私を睨んでいる。
ううう…降りたい。
今すぐこの馬車を飛び降りて、1人で屋敷に帰りたい…。大体、今まで私が知る限り一度たりとも一緒に帰った事など無かったのに何故私はこんなところにいるのだろう?やっぱりどこかで降ろして貰おう。このあたりなら辻馬車を拾えそうだし…。
「あ、あの~…私、やっぱり降りま…」
「駄目だ」
即答で却下された。
「え…?」
「何だ、そんなに露骨に嫌そうな顔をするな。気分が悪い」
だったら始めから人を乗せなきゃいいでしょう?
…とは、決して口に出せないけれども。
「ほら…ユリアさんもああ言ってる事だし…降ろしてあげましょうよ」
テレシアが王子の組んでいる腕をぐいぐい引っ張りながら言う。
「それは無理だ。何としてもユリアを屋敷へ送り届ける」
ベルナルド王子はぶすっとしたままこちらを見る。
「フン。何よ…」
テレシアはますますふくれっ面をしてそっぽを向いてしまった。
それにしても…。
うわぁ~…知らなかった…。この2人、こんな感じで話をしていたなんて…。
「あの…ところで何故突然私を屋敷へ送り届ける事にしたのですか?」
王子と私は婚約者同士では…。その時、肝心な事を思い出した。そうだ!婚約破棄についての話だ!
「何だ?どうかしたのか?」
ベルナルド王子が尋ねて来た。
「はい、そうです。私と王子の婚約は…」
そこまで言って口を閉ざした。しまった。今ここにはテレシアもいる。こんな重要な話をテレシアのいる前で話すわけには多分いかないだろう。
「何だ?言いかけておいてやめるなんて」
「ええ、そうです。最後まで言ったらどうですか?」
何故か2人で責めてくる。
「い、いえ…だ、だったら尋ねますけど…何故私を突然送ることにしたのですか?」
話題を変えてしまおう。
「決まっているだろう?お前を無事に屋敷に送り届ける為だ」
「え?」
するとテレシアが言った。
「ユリアさん…本当は馬車事故に巻き込まれて学園を休んでいたんですよね?」
「え?何故その事を…?」
「職員室の前を通りかかった時、中で話し声が聞こえてきたのだ。やっとユリアが細工された馬車事故から目が覚めて、本日登校すると連絡があったという話をな」
「え…?」
だから私が馬車事故に遭った事を知っていたのか…。
「何故、言わなかった?」
「え?」
「だから、何故馬車の事故に遭って学園を休んでいたと言う事を黙っていたんだ?」
ベルナルド王子の眉間にシワが寄る。
「えっと…それは…」
言えるわけない。私は命を狙われていてベルナルド王子も候補者の1人だったから言わなかったなんて事…口が裂けても…。
「ふん、おおかた俺がお前の命を狙っているとでも思ったんじゃないのか?」
ベルナルド王子の言葉に驚いた。
「えっ?!な、何故それを…っ?!」
するとベルナルド王子はため息をついた。
「全く…。仮にも一応俺はお前の婚約者なのに…何故命を狙っていると思ったのだ?」
「そ、それは…」
チラリとテレシアを見る。
「え?何故私を見るんです?」
テレシアはしれっと言う。…ひょっとしてテレシアは自分の立場を理解していないのだろうか?婚約者がいる相手と仲良くしていれば、私が邪魔に思われている…と言う発想には至らないのだろうか?
「何だ、言いたいことがあるならはっきり言え」
「分かりました、では言います。お2人にとって私は邪魔な存在なのでは無いですか?婚約者の私が邪魔で…命を狙って来たと思ったからです」
…とうとう言ってしまった。
「何故、俺とテレシアがお前を邪魔に思う?」
「そうね、謎だわ」
はぁ?!この場でまだ2人はしらを切るつもりなのだろうか?
「だって、お2人は恋人同士ですよね?」
ついに核心を突く質問をしてしまった。すると2人は驚いたかのように目を見開く。
「何だって?それは違うぞっ!お前…今まで俺たちをそういう目で見ていたのかっ?!」
「ええ、そうですよ!私とベルナルド王子は腹違いの兄妹ですよ?!」
「え…?ええ〜っ?!」
今度は私が驚く番だった―。
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