第74話 誘って頂かなくて結構です

「ベルナルド王子と…?」


いきなりの質問で驚いた。まさかノリーンの口からベルナルド王子の名前が出て来るとは…。確か、ノリーンの家柄はしがない男爵家だった…様な気がする。それに過去の記憶が完全に戻ったわけではないので確かな事は言えないけれど、ノリーンとベルナルド王子は何ら接点も無かったはず。なのに、何故そんな事を聞いて来るのだろか?

色々頭の中で考えていると、私が中々質問に応えない事に焦れて来たのか、再度同じ質問をしてきた。


「それで、どうなんですか?ベルナルド王子とはうまくいってるのですか?」


妙に真剣な瞳で尋ねて来るノリーン。…一体何故追及してくるのだろう?


「う~ん…それじゃ私から聞くけど、ノリーンから見て私とベルナルド王子の関係はどう見えるの?」


「そうですね…今までのユリア様は…ベルナルド王子に夢中だったので、王子に近付く全ての女子学生を牽制していましたけど…ここ最近ユリア様はベルナルド王子に近付いていませんよね?だから以前に比べると王子との距離は離れた気がするのですが…ひょっとして、テレシアさんのせいですか?ユリア様が王子に近付くのをやめられたのは?」


「え…?テレシアさんの?」


確かに私から見てもベルナルド王子とテレシアはべったりしているように見えるし、断片的な過去の記憶からも王子はテレシアを贔屓していた気がする。


だけど…。


「ごめんなさい。私、記憶喪失だからテレシアさんのせいでベルナルド王子から離れたのかどうか自分でも理由が分からないのよ。それにどう見ても、私よりもテレシアさんの方がベルナルド王子と仲が良いと思わない?」


「確かに…そうですよね………のクセに」


ノリーンが小声でボソリと言った。


「え?」


今…何と言った?しかも随分ガラの悪そうな台詞に聞こえたけど?


「ねぇ、ノリーン。今…何て言ったの?」


「え?いいえ?別に何も言っていませんけど?」


「そう?」


本当にそうだろうか…。だけど、ノリーンには気をつけたほうが良いかもしれない。

だから私は言った。


「それにね、どっちみち私はもうベルナルド王子には何の興味も無いから、出来れば婚約解消してもらいたいのよね…」


「え?そうなのですか?」


ノリーンが嬉しそうな声を上げた時―。



「ユリア」


背後で私を呼ぶ声が聞こえた。


「はい?」


振り向くと、何と驚くべきことにベルナルド王子が3人の腰巾着とテレシアを連れて立っていたのだ。


「これから食事か?…その…もしよければ我々と同じテーブルで食べないか?」


「「「「「えっ?!」」」」」


声を揃えたのは私とテレシア、そして3人の腰巾着達だった。


「はい、喜んでっ!」


そして何故か嬉しそうに返事をするノリーン。冗談じゃない、何故私がこんな一緒にいるだけで胃が痛くなりそうなメンバーと一緒に食事をしなくてはならないのだろう?


「ベルナルド王子、一体何を言っているのですか?!」


焦った様子でベルナルド王子に詰め寄るのは当然テレシアだ。


「そうですよ、王子。一体どうしたんですか?あれ程婚約者の事を嫌っていたでしょう?」


失礼な事を言うのはアーク。


「ええ、あの2人の事は放って置きましょう」


オーランドが言う。しかし、マテオだけは無言で私を見ている。誘ってきたのはベルナルド王子なのに、テレシアもアークもオーランドも敵意を込めた目で私を見ている。全く…。


「あの、申し訳ございませんが…私は遠慮しておきます」


「何故だ?」


不思議そうな顔をするベルナルド王子に私は言った。


「決まっているじゃないですか。私が王子に良く思われていないのは分かっていますので。無理に声を掛けて頂かなくても結構ですから、どうぞノリーンだけ誘って下さい。それでは失礼致します」


そして頭を下げて背を向けると立ち去った。


「え?お、おい!待てっ!」


静止するベルナルド王子の言葉を背中で聞きながら―。



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