第65話 夢の中での再会?

 ジョンは普段とは全く違う格好をしていた。フード付きの長いマントを羽織り…その格好はまさに魔法使いの姿のようにも見える。


「ユリア…記憶は戻ったかい?」


その声は今迄聞いたことが無いくらい、優しい声だった。


「ジョン…一体今まで何処に行ってたの?」


するとジョンは首を傾げた。


「ジョン?誰の事を言ってるんだい?」


バルコニーの手すりからひらりと降り立ったジョンが月明かりを背に尋ねてくる。


「え…?だって…」


するとジョンは言った。


「ユリア…もう12日目になったけど…その様子だと、まだ殆ど記憶は戻っていないようだね?まぁ60日目になる頃には完全に記憶が戻ってくるとは思うけど…」


「え?」


分からない、さっきからジョンが何を言っているのか私にはさっぱり理解出来なかった。それに…目の前のジョンは本当に私が知っているジョンなのだろうか?顔はまるきり一緒だけども雰囲気も口調もまるきり違う。とても同一人物には思えなかった。


「それにしても…アイツがここまで力を持っているとは思わなかった…完全に油断していたよ。まさか力を奪われてしまうとはね。いまだに僕の力が完全に戻っていないから、今はまだこういう形でしかユリアの前に姿を表すことが出来ないけれど…。とにかく僕が完全に力を取り戻すまでは…死ぬなよ?その指輪も絶対に外さないようにね。ユリアを必ず守ってくれるから」


ジョンは私の右手を指さした。


「え…?」


その言葉に私は自分の右手に視線を落とし…目を見張る。いつの間にか右手の薬指に青白く光る指輪がはめられている。


するとジョンが言った。


「今、ユリアが見ているのは…ただの夢だ。目が覚めたら今夜の事は完全に忘れる事。いいね?それが今の…ユリアを守るただ一つの手段だ」


そしてジョン?は指をパチンと鳴らし…そのまま私は意識を失ってしまった―。




****


コンコン

コンコン



扉をノックする音が聞こえてくる。


「う〜ん…」


「ユリアお嬢様?入りますよ?」


誰かの声が扉の外で聞こえる。


ガチャッ


扉が開かれる音が聞こえ、私の眠っているベッドに足音が近付き…

 


「ユリアお嬢様っ!なんて格好で寝てらっしゃるのですかっ?!」


突然の金切り声で私の意識は覚醒した。


「え?何?何っ?」


そして私は気がついた。ベッドの足元に隠れるように転がって眠っていたと言うことに―。



****


 朝食の席―


カチャカチャとフォークとナイフの動く音だけが響き渡るダイニングルーム。


「…」


私の向かい側の席には父が無言で食事を続けている。う…何だかきまずい。父が黙って食事をしているので、私も何を話せばよいか分からず無言で食事を続けていると、不意に父が話しかけてきた。


「…風邪は引かなかったか?」


「はい?」


突然の質問に何の事か分からず、首を傾げた。


「メイドから聞いた。今朝…上掛けも掛けずに床の上に転がって眠っていたそうだな」


「は、はい…そのようです。あ、それで風邪を引かなかったか尋ねられたのですね?」


「あ、ああ。そうだ…しかし…」


父はチラリと私を見た。


「その様子だと…大丈夫そうだな」


「ええ、ピンピンしています」


すると父が言った。


「本日、お前の2人の兄がこの屋敷に帰ってくる。ユリアが馬車事故から目覚めたことを連絡した所、会いに来ると言ってな」


「え?!」


確か最初に父に会った時、私は父からも兄たちからも嫌われているような事を言われた気がするけれども…。


「今日は週末だし、丁度良かった。二日間はこの屋敷に泊まるそうだから…久しぶりに家族団欒の時間を過ごせそうだな」


そして父は笑った。


「は、はい。そうですね…」


私はそう返事をしたものの内申不安で不安でたまらかなった。何故なら私は未だに記憶喪失のままなのだから…。


記憶喪失…。その時、脳裏で誰かの声が蘇る。



「ユリア…記憶は戻ったかい?」


と―。


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