第58話 どこまでついてくるつもりだ?

「ねぇ!待ってよ、ジョンッ!」


ズンズン歩いていくジョンを追いかけて声を掛けると、彼は立ち止まり…振り向いた。


「来たか、ユリア」


「来たか、じゃないわよ。ねぇ、さっきのベルナルド王子の話だけど…あの噂を広めたのはジョンじゃないの?」


教室目指して2人で歩き始めると、ジョンは言った。


「ああ、そうだ。俺が周囲に言いふらしたのだ。お陰であっという間に噂が広がってくれた。それにしてもユリアのくせに俺が噂の出どころだと良く見抜いたな?最近大分勘が良くなって来たんじゃないのか?褒めてやるぞ」


そう言って振り向くと頭を撫でてくる。しかし、そんな事を褒められても少しも嬉しくないし、しかも馬鹿にされているようにも思える。悪びれる堂々と言うジョンに危うく切れそうになってしまった。


「はぁ〜?ちょっと酷いんじゃないの?何故そんな噂を言いふらすのよ!」


再び歩き始める私達。


「決まっているだろう?ベルナルド王子のお前に対する好感度を下げるためだ」


「え?何故?!」


ま、まさか…ジョンは私の事をす、好きだから…?


すると前方を歩いていたジョンが振り返った。


「おい、何だ?その目つきは…言っておくがお前の事を好きだからとか言う考えなら大間違いだからな?俺にだって選ぶ権利くらいある」


とことん失礼な言い方をする男だ。けれど、ジョンの言葉を一々、真に受けていては身が持たない。


「それなら何故ベルナルド王子の好感度を下げる必要があったの?」


「分からないのか?ユリアが王子の事を迷惑に思っていたからだろう?不思議なことに今のベルナルド王子はユリアの事を意識している。このまま放置しておけば、今に婚約式を上げ、そのまま結婚式へとなだれ込む可能性もある。そんなのは迷惑極まりないだろう?」


大真面目に言うジョン。


「アハハハ…何言ってるのよ。そんなはずないでしょう?あのベルナルド王子が私の事を意識しているだなんて…」


「何だ?真に受けていたのか?冗談に決まっているだろう?」


「はぁっ?!あ、あのねぇ…」


言いかける私の言葉を妨げるかのようにジョンは言う。


「とにかく!昨日、王子がどんな意図でユリアを尋ねてきたのかは知らないが興味をを抱いて来ているのは確かなのだ。付きまとわれるの嫌だろう?」


「ええ…まぁ確かに付きまとわれるのは嫌だけど…でも、王子はあの出鱈目な噂を流したのは私ではないかと疑っている…いいえ、完全にそう決めつけているのよ」


「ああ、そうかもしれないな」


頷くジョン。


「何てことしてくれるのよ!ひょっとすると私の命を狙っているのはベルナルド王子かもしれないのよ?ますます私に恨みを募らせて、襲撃してきたらどうするの?」


「何、安心しろ」


隣を歩く私の肩をポンポン叩きながらジョンが言う。


「安心…?何を安心しろって言うの?」


「何だ?仕方ない奴だな。また忘れたのか?」


「忘れているはず無いでしょう?どうせ『俺を誰だと思っている?』とでも言うつもりでしょう?分かっているわよ。ジョンが私の護衛騎士だと言う事位」


「だったら何も心配することはないだろう?俺がお前の命を守るのだから」


「だから余計に心配なのよ。ジョンは何故か意図的に私を陥れるような態度を取っているようにみえるから、ジョンも本当は私の命を狙っている人物の1人なんじゃないかって…」


その時、ジョンの肩がピクリと動き…足を止めた。


「な、何?きゅ、急に立ち止まらないでよ」


「…」


ジョンは黙ったまま動かない。な、何…?私、まさかマズイ事を口走ってしまったのだろうか…?


「ジョ、ジョン…」


恐る恐る呼びかけると、ジョンはクルリと振り向いた。…その目はいつになく真剣だった。


「ユリア…」


ジョンが口を開く。


「な、何でしょう…?」


引きつった笑みを浮かべながら返事をする。


「一体、どこまでついてくるつもりだ?」


「え…あっ!」


そこは男子更衣室の前だった。


「忘れたのか?今日の午後の始めの授業…男子学生は剣術の授業だと?ひょっとして俺と一緒に男子更衣室に中に入るつもりだったのか?」


「し、失礼しましたっ!」


クルリと背を向けた私は一目散に自分の教室へ向かって走り出した。


顔を真っ赤にさせながら―。







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