1-08_初めてのデート

■待ち合わせ

小田島さんとの待ち合わせはターミナル駅前の大きな液晶の前に10時。

なのに、僕は既に9時過ぎには駅に着いてしまった……


ただ、待ち合わせに早く来たのがバレるのが恥ずかしいので、待ち合わせ場所が見えるところまで来たら、立ち止まった。

少し離れたところから待ち合わせの大きな液晶を見て、いい具合の時間になったらそこに行く……つもりだった。


でも、少し離れたところから見つけてしまった。




小田島さんを……




なんでいるの!?

まだ1時かんくらい前だよ!?


小田島さんは、小さなカバンから手鏡を取り出し、前髪を直していた。

手鏡をしまうと、次は爪をチェックしていた。


あ、深呼吸してる。

また手鏡をして前髪のチェック。




か、かわいいっ!




すぐに待ち合わせ場所に向かったけど、僕が着く誰かに前に話しかけられている。

道を聞いている……訳ないね、ナンパだろう。


あ、小田島さん、断っている。

そりゃあそうか、今から僕と待ち合わせだ。


でも、嬉しいな。




「お待たせー!」


できるだけ自然に、焦っていることを悟られないように。




「え!?あ、ああ!おはよう!葛西くん!」


「ちっ、彼氏持ちか……またね、カノジョ」


知らない人はやはりナンパ、そそくさと退散した。

そして、小田島さんと目が合った。


「えと……待った?」


待っていたのは知っているけど、聞いてしまった。


「んーん、今きたところ」


少しはにかんで答えた。


「その…服、かわいいね」


そう言うと、小田島さんが下を向いて真っ赤になった。

『ぷしゅー』っと音が聞こえそうなくらい、分かりやすいリアクションだった。


てっきりギャル系のファッションで来ると思っていたのに、清楚系でミニスカートとか僕の好みにバッチリ過ぎて直視できない程だった。


「い、行こうか……」


「うん……」


駅は比較的大きいので、当然人も多い。

はぐれてしまわないように注意が必要だ。


「あの、よかったら手を……つなぎませんか?」


「はい……お願いします」


いつもの誰にでも気安く話しかける小田島さんとちょっと反応が違って、すごく新鮮だった。






お互い待ち合わせ時間より1時間近く早くきてしまったので、映画はまだ始まっていない。

しかも、お店も数えるほどしか開いていない。


早速なんだけど、ファミレスに入って、ドリンクバーで少し時間を潰すことにした。


「ギャル系の服でくるかな、と思ってたよ」


「あ、その方がよかったかな?」


「いや、今の方がよかったよ。なんか、その……かわいい……と思う」


「そかな、ありがと……」


そう言いながら、小田島さんは髪の毛の毛先をもじもじと触っていた。



「ユカね、ギャルっぽいけど、ギャルじゃないから」


「そうなんだ」


「うん、ほら、うちって美容院じゃない?」


確かに、昨日遊びに行かせてもらったから知ってる。


「だから、自然とファッションとか、髪形とかに目がいって……」


「あ、なるほど!」


「ギャルって、いつも流行の最先端だから、注目してるっていうか……」


「それで影響されちゃうんだ」


「そう!実際、ギャルの友達も多いし、時々言葉がうつっちゃうけど、好きなのはギャルのファッションで、私にはギャルは似合わないっていうか……」


「そんなことないと思うよ?ギャルファッションの小田島さん、かわいいと思うな!」


「ホント!?じゃなくて、マ!?」


言い直さなくてもいいんだよ。

そこは。


「でも、小田島さんがそんなにかわいい服なら、僕はもう少しいい服にすべきだったなぁ」


一応持っている服の中で、一番いいものを選んではきたのだけれど、小田島さんの横に並ぶとかなり目立つ。

……悪い方で。


「じゃあさ、映画終わったら服見てみない?ショッピングモールの中のお店でもいいし、なんなら、近所によく行くお店があるからそっちでもいいし」


「あ、それ楽しそう。小田島さんがどんな服を選んでくれるのか、楽しみ」


「え!?ユカが選ぶの!?」


「そうじゃないの?」


「……うん、選ぶ。えへへ、責任重大だ」


「その服着て、次のデートには行くから」


「わぁ、もう、次のデートの約束が出来ちゃった!」


「ははははは」


「えへへへへ」






■映画

最初は、ちょっと緊張したけど、いきなり映画に行くより、ちょっと寄り道してからの方が、安心して色々話せた気がする。

結果オーライかな。


映画はベタに恋愛映画を選んだ。

学校内で恋人のふりをしているうちに、本当に好きになっていくみたいな、ありきたりなストーリー。


ただ、最後の感動のシーンの演出がすごい。

話の展開は分かっているはずなのに、ジーンとする。


「(ぐずっ、ぐずっ)」


静かに鼻をすする音が聞こえたので、横を見ると、小田島さんが泣いていた。


「(うううぅぅ……)」


いや、これは号泣だった。


あまりの可愛さと、『守ってあげたい』という気持ちから、肩を抱き寄せ頭を近づけた。

ただ、『ゔゔゔ……』と号泣は止まらないので、持っていたティッシュとハンカチを手渡した。





「ごべんでぇ……」


『ごめんね』かな?

映画館を出た時には、小田島さんは涙で大変だった。


「ユカ涙もろくて……」


小田島さんは涙が止まらず、うつむいたまま歩くので、サポートしようと思ったら、自然に肩の辺りに手を回していた。


お互いなにも言わないけれど、少しいい雰囲気だった。




ここで小田島さんがトイレに行った。

戻ってきたら、またキラキラの小田島さんだった。


「いやぁ、ごめんごめん。ユカほんとに涙もろくて・・・」


スッキリした顔で戻ってきた。


「あー、ヤバかった……」


小田島さんは、話していても表情がコロコロ変わる。

こんな子と付き合えたら毎日楽しいだろうなぁ……。



そう言えば、クラスの人達は、男女問わず小田島さんと仲が良い。

小田島さんが話しかけるからってのもあるんだろうけど、こういったところに惹かれるのもあるんだろうなぁ。


「あ、葛西くん、お腹空かない?」


「そういえば……」


僕たちは、少し昼の時間をずらしてから昼食にした。

今度は、少し騒がしくてしまってもいいファストフード。


そこで、さっきの映画の話を二人でした。

映画のデートって映画を見ている間は、映画に集中するから二人でいても少し寂しいと思っていたけど、これがあったのか。


二人で共通の話題を持って話すことの楽しいこと。

各シーンで、お互い感じたことが違ったり、心理の裏側を深読みしたり……


「葛西くんが映画、楽しんでくれたみたいでよかった」


「え?楽しかったよ?」


「ほら、恋愛映画だから、男子はつまらないって思う人もいるかなって」


「へー、そうなんだ。僕は楽しめたよ」


「えへへ、そっかそっか……」


「?……どうしたの?」


「あ、ごめん。いや、なんか、一緒のものが楽しめるっていいね」


「そうだね……」


なんか、言っていて二人ともテレてしまった。





その後、ショッピングモール内の雑貨屋や洋服店を見て回った。

服は小田島さんが見立ててくれる予定だけど、見ている服はちょっとイメージと違ったらしい。


「あ、ねえ、葛西くん、ユカがよく行くセレクトショップ行ってみない?」


「え、うん」


「ショッピングモールから出ちゃうけど、歩いて行けるし、男の子用も置いてるの」


「へー、気になるな」


「値段もそんなに高くないし、なんかデザインが好きでよく行くお店」


「それは期待できる。じゃ、いこっか」


「うん」


その時は、もう、何も言わなくても自然に手をつないでいた。

互いに仲良くなれたと感じていた。






■セレンディピティかエンカウントか 

ショッピングモールから比較的すぐ近くに小田島さんおすすめのセレクトショップがあった。


そんなに広いお店じゃないけど、確かにセンスがいい服を置いている。

色々見た中で、小田島さんが選んでくれたのは、シャツだった。


「これなら色々なパンツとも合わせやすいし、そのままでも重ね着してもかっこいいと思う」


「確かに」


本当はあんまりわかっていないけど、小田島さんに言われるとそんな気がしてきた。

幸い値段も思ったより安かったので、買ってしまった。


次にどこに行くか話しながら店を出た。

こうして、話しながら決めて動くのも楽しいなぁ。


ただ、ショッピングモールからは一度出てしまったので、また戻るのもなんだ。

まだ3時過ぎくらい。

帰るには少し早い。

もっと一緒にいたい。


そんなことを考えていると、ふと通りかかった店の前で見慣れた顔に気が付いた。




それはウルハだった。




バッチリ目が合ってしまった。

ウルハは知らない男子と一緒に歩いていた。

これが噂の光山先輩か。


自分以外の男に肩を抱かれているのを見るだけで胸が締め付けられた。

もう、僕のものじゃないんだった……。


僕も今、小田島さんと手をつないでいる。

そういうことだ。




4人向き合って固まった。


僕はなんとなく声をかけにいくし、小田島さんは僕とウルハを交互に見ている。

光山先輩は、その雰囲気から何が起きたのか分からない様子。


そして、ウルハはみるみる表情が崩れて行った。


「おっ、おい!」


光山先輩がその異常に気付き、ウルハに声をかけた。


しかし、ウルハはすごい勢いで走って行ってしまった。

なんとなく、泣いていたかもしれない。


光山先輩は後を追いかけて行った。

そして、後に残された僕と小田島さんは……




どうすんだ、この雰囲気。




「あの……葛西くん……よかったら、これからうちに来ない?」


「え?」


「ママもまた連れておいでって言ってたし」


「そうなんだ……」


ウルハのことも気になったけど、今は小田島さんを優先すべきだろう。

色々考えずに、小田島さんの申し出に乗っかった。






■うちにおいでよ

気付いたら、小田島さんの部屋にいた。

なんでこうなった!?


昨日来たやつが、今日も遊びにきたら親御さん的にはどうなんだ。


「二度目だね、えへへ」


そう言いながら、部屋にジュースを持ってきてくれた。



小さい丸テーブルにジュースを置くとちょこんと僕の隣に座った。

昨日はテーブルに対して、向かい合わせに座っていたけど、今日は隣に座っている。


手を伸ばせば、すぐそこに小田島さんがいる。

そう思うと、急にのどがカラカラで、持ってきてもらったジュースを飲んだ。




「その……びっくりしたね。会長のこと…」


「うん」


「泣いてたね」


「そうだね」


「その……」


そう言いながら、床についた僕の手に小田島さんが手を重ねてきた。

反射的に彼女の方を向いた。


「私……葛西くんのカノジョ……で、いいんだよね?」


不安を孕んだ表情だった。

確かに、僕たちは『好きだ』とも『付き合おう』とも言い合っていない。

いきなりのキスからスタートした関係。


いや、もっと前の髪を切ってもらっている時から始まっていたのかもしれない。


「うん……僕のカノジョだよ。ウルハのことはちょっと驚いただけ」


「会長のこと……名前呼びなんだね」


「あ、ごめん。幼馴染だから……つい……」


(ふるふるふる)「ううん、いいの。でも、ユカは苗字呼びだし……ユカのことも、『ユカ』って呼んでほしい……かな?」


テレながらも真剣な目だった。


「うん……。その……、ユカ……」


二人とも下を向いてしまった。

絶対僕は顔が真っ赤だ。


「ごめん……慣れるまでぎこちないかも……」


「んーん、嬉しかった……」


かっ、かわいい・・・


「私も『ユージくん』って呼んでいいかな?」


「もちろん!かっ、カノジョだしねっ!」


無駄に勢いよく言ってしまった。


「よかった……ユカね、白状しちゃうと、葛西くんのことずっと気になってたの」


「え!?そうなの!?」


「うん……ユカ、一生懸命な人が好きだから、いつも頑張って駆けまわってるユージくんに気づいたら……気になっちゃって……目で追いかけてた」


「そっか、嬉しいな……」


「会長と別れたって聞いたから……ズルいって思ったけど、チャンスって思って……」


「嬉しかったよ。髪も切ってもらったし。実際、あれでスッキリしたところあるし」


「ホント?役に立てたらよかった……」


小田島さん……ユカが僕のシャツを軽く摘まんだ。


「ユカ、ユージくんのカノジョだよね?」


また聞かれてしまった。

すごく不安に思っているのだろうか。

何とかしなければ……


「あの……よかったらどうじょっ!」


噛んだな…ユカは目をつぶってあごを少し持ち上げて僕に近づいていた。




キスをしていいってことだよね、これ。




まだユカの肩などに触れるのは恥ずかしかったから、顔だけ近づけて優しくキスをした。


3秒…4秒……キスの時間ってどれくらいが適正なのか?

しばらくして僕は顔を離した。


「「……」」



「テレちゃうね……」


「うん……」


「ふふふ」


「ははは」


なんだか甘々な時間になってしまった。


「な、なんか暑いね、窓開けようかな」


手をうちわみたいにして仰ぐユカ。


これが僕のカノジョなんだ……

なんか急に彼女に対して愛情が湧き出てきた気がする。






(コンコン)ドアがノックされた


「はーい」


ユカが返事をした。


(ガチャ)「おじゃまじゃない~?」


そう言って、ユカのお母さんが入ってきた。


「お菓子とかあった方がいいかなぁと思って」


手に持ったお皿には、お菓子が数種類お皿に盛ってあった。


「あ、ありがとうございます」


お母さんはすぐに退室せず、部屋の入り口にちょこんと膝で座った。


「昨日ねぇ、葛西くんが帰った後も、ユカったらずっと葛西くん、葛西くんって……」


『ちょいと』って感じで右手を振りながら笑顔で話し始めた。


「ママ、ちょっとやめて!恥ずかしい!」


「あら、いいことじゃない!」


「全然よくない!恥ずかしい!」


この親子のやり取りに僕はどんな顔をしているのが正解なのだろうか……


「葛西くん……」


「は、はい!」


お母さんに話しかけられた。


「これからも、ユカのことをよろしくお願いしますね」


「はっ、はいっ!」


無駄に背筋が伸びた。


「やだ、ユージくんったらガチガチ」


「いやぁ……」





帰りがけ、玄関ではまたお母さんも見送りしてくれた。


「ユージくん、また、学校で……」


「うん、また学校で……」


ちょっと照れくさかった。


「あらあら?何かいいことあったのかなぁ?」


「やめてよママ!」


「あらぁ、後でゆっくり聞かせてね、ユカ」


「もう、なんでもないったら!」


そう言って、お母さんを奥に押しやろうとするユカ。

なんか、ほんといい家なんだなぁ。


「じゃあ、また」


といって、僕はユカの家を後にした。

帰り道、ずっと顔がにやけていたと思う。


この時、僕の頭にはウルハのことはなかった。

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