06_一番大切なもの
■葛西ユージ視点
最近バイトを辞めた。
元々スポットだったので、こちらから声をかけないと仕事が決まっているわけじゃない。
週末は色々と忙しいこともあったので、入りたいときに入れる都合のいいバイトなんてそうそうない。
そこで、商店会の中村さんを頼っていた。
中村さんは商店会長で、あの商店会の中で一番の古株の駄菓子屋だ。
かなり顔が利くので、ラーメン屋とか焼肉屋とか、週末だけ忙しくなる店を紹介してもらっていた。
中村さんの口利きがあるので、バイトが決まりやすく、すごく助けてもらった。
そんなのもあって、お菓子は中村商店で買うことが多かった。
各部の試合の情報は手に入らなくなったし、応援に行くこともなくなった。
同じ高校の生徒であることには違いないけれど、もう情熱がなかった。
そう言えば、今月は中村さんに会報を届けてない・・・
不義理だし、一度挨拶に行くかな・・・
でもなんて言う?
幼馴染にフラれたのでもうバイトしません?
バカにしていると思われてしまう。
ため息が一つ出た。
■中野ウルハ視点
「スポンサーを続けていただくことはできないでしょうか?」
この日、地元商店会の会長のところに来ていた。
次に起きたトラブルは、これまで生徒会に援助してくれていた商店会のスポンサーさんが今年は辞退したいと言ってきたことだ。
生徒会活動には文房具や紙などある程度必要なものはある。
学校からの経費はあるのだが、今年は辞退して地元商店会の協力だけで遣り繰りできるようになっていた。
文化祭や体育祭の時は別として、日々の活動は寄付だけで何とかなっていたのだ。
そして、余った資金は部活などの活動資金に回していた。
それが突然の辞退。
生徒会主要メンバーで商店会長さんのお店に事情のヒアリングと、重ねてのお願いのために駄菓子屋に来ている。
「商店会って言ってもね、今はあんまり景気良くないからねぇ」
「大変なのは理解しています。でも、そこを何とか・・・」
「僕もね、あそこの出身だから母校を助けたいとは思うけどね・・・」
「でも、これまでだって・・・」
「ほら、これまでは葛西くんが来てくれてたから・・・彼やめさせちゃったんでしょ?」
「それは・・・」
「若い子に言ってもまだ分からないかもしれないけどね、僕らの商売の一番は『信用』なんですよ。」
また出てきたユージの名前に動揺してしまった。
「ネットの時代に、今時だけどね。顔を見て、話して、そして信用を得る・・・やっぱり人付き合いの基本なんですよ」
「はい・・・」
「会長さんは今回初めてうちの店に来てくれたよね」
「はい、すいません・・・」
「他の子もあんまり会ったことないね」
「・・・」
誰も答えられない。
優しい口調で、なだめるように言ってくれているけれど、明確に不快感を向けられている。
でも、ここで引き下がると話が終わってしまう。
「でも、商店会長さんのご協力がないと、他のお店もなかなか協力が得られなくて・・・」
「それなんだよ。私の名前は『商店会長さん』じゃないよ。葛西くんとは、『葛西くん』、『中村さん』で呼び合ってたけどね」
「あ・・・」
「あと、毎月会報にうちの店のこととか、他の店のこととか書いてくれてて、その会報を持ってきてくれていたんだよね」
枠を埋めるためと思っていた、商店会情報はそんな意味が・・・
紙面がごちゃごちゃするから消してと言っても、絶対に折れなかったのはそういう・・・
「それを見たからってお客さんが来るわけじゃないけどさ、やっぱ嬉しいよね。協力したいと思うよね」
「はい・・・」
「葛西くんさ、来るたびにお菓子買って行ってくれるんだよ。生徒会メンバーへの差し入れだって言って。なかなかできないよね、ああいう気遣い」
「彼がそんなことを・・・」
「ある時なんかさぁ、えらいたくさん買ってくれたんだよ。『予算大丈夫なの?』って聞いたらさ、『バイトしてるから大丈夫』って。まさか自分のお金と思わないじゃない・・・」
「え?ユージが自分のお金で!?」
「何かバレー部だか、バスケ部だかの試合だからっていっぱい買ってくれてね」
やっぱり、ユージは週末に各部の試合を見に行ったりしている!
あと、バイトって・・・そんなの知らない!
聞いたことがない!
「あの、彼のバイトって・・・」
「知らないの?週末だけだからって、この商店会で働いてたよ。ラーメン屋の皿洗いとか焼肉屋とか・・・うちも何度か店番頼んだし」
「そんな・・・」
「僕もね、葛西くんを可愛がってたから、クビにされたって聞いちゃったらね・・・」
覆すことが出来ない絶対的な話・・・これは交渉の余地なんてない。
私達の方が・・・いえ、私の方が間違ってる・・・
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