第43話 逃げられはしない
こういう場合、
ユイトはスマートナイフを投擲して二人を助けた後、そのままビルより飛び降りて着地し、自分が気絶させたタキガワ組の拉致要員の首根っこを掴んで、組長のもとへと案内させていた。
「入れ」
チンピラとヤクザの差ってどこだろう。どうやらユイト達を襲ってきた連中が相応に修羅場をくぐったヤクザで、門の前にたむろしているのは甘い汁を吸えると踏んで従ってきた連中なのだろう。有象無象で気に掛ける価値はない。
武器の保有を認めないために腰に下げていたブレードとナイフを預け、完全な丸腰になる。
もし体内に戦闘インプラントを施していたら直接会う事はできなかっただろう。
そのまま組長室のドアをくぐりぬけた。
「……対防弾、防爆素材のドアか。組長さんってのはこうも守りを固めなきゃならないんだな」
「おめぇか、うちのシノギに手ぇだした男は。よくここに来れたもんだ」
椅子に深く腰掛けた老人がタキガワ組長なのだろう。
周りには男が数名。体のあちこちが機械に置換された重サイボーグだ。腰に釣る銃器も巨大で、組長子飼いの精鋭なのだろう。
どのみち、
「ユイト=トールマンだ。タキガワ組長さん? 誘拐を指示した犯罪者にしてはでかい面してるな。
ヤクザって詫びる時には指詰めるんだろ」
「はは、わけぇ奴ぁ無鉄砲でまるで状況が見えてないもんだ」
丸腰の男が脱出不可能の牢獄で、数名のサイボーグ相手に恐喝を受けているこの状況で、そんな口を叩ける。
命知らずな言葉にタキガワ組長は憐れみの笑いを浮かべた。
ユイトは言う。
「ユーヒとマイゴの二名は借金を返した。トレーラーは盗品を俺が取り戻しただけ。なぜ手を出した」
「……は。トジマの奴がまさか
別に、大した話じゃねぇよ。あのトレーラーに高い金出す奴がいる。三億だ。だから奪おうとした。それだけよ。
しくじった、だがそれがどうした。おめぇを五体満足で出してやる代わりにあのトレーラーをよこせ」
「盗人猛々しい」
周りのサイボーグが拳銃を構える。
従わなければ殺す。そういう意味だろう。
ユイトは面倒そうにしながら懐から携帯端末を取りだした。
「あんたがトレーラーを手に入れても……多分そのころにはタキガワ組は残ってないんじゃないか」
「はぁ? どういう意味だ」
こんな
侮辱されて怒りを覚えるタキガワ組長の前に、サンを介して用意した動画が流れ始める。
先ほど、ユーヒとマイゴの二人を襲ったヤクザたちが何をしでかしたのかの、その顛末だ。
途中までは冷静なままでいられた。だが若いヤクザの一人が、子供を羽交い絞めにして拳銃を突きつけた場面で組長はとうとう悲鳴をあげて電話を取り、怒鳴りつけた。
「と……トジマとこのバカを連れてこい! 生かしてだ!」
もはやこの
タキガワ組長は顔色を失いながら持ちうるコネクションのすべてを動員して必死に生き残りの目を探そうとしていた。
ユイトはゆっくりと立ち上がり、自分に興味を失った連中の前で入口の対爆ドアへと進んでいく。ドアを見つめながら声を発した。
「タキガワ組長、なんだか変だと思わなかったのかい?」
「……てめぇみてぇな雑魚なんざ知るか、とっとと失せろ!!」
「あんたの始末は俺が手を下すまでもない。納税者に危害を加えたヤクザなんかシティガードが草の根掻き分けて一匹残らず叩いてくれるのに、どうしてわざわざやってきたのかって」
ドアノブを掴む。
「お前は、俺の仲間と教え子を狙った。
なら自分の手で決着をつけなきゃならない」
そしてそのまま――ドアノブを回して、力を籠める。みしり、と異音が手元から響く。本来ならばあり得ない角度まで回転するドアノブ。想定をはるかに超える剛力を籠められ、歪みはより一層強まり、耐久限界を迎える。
引きちぎった。
一見すれば合成木材で作られた……その実、堅牢無比の対爆ドアの一部を純粋な腕力一つで破壊してのけたのである。
ヤクザの一人があまりにも異様な事態に唾をのむ。ここの警備は厳重で武装一つ持たない生身の問題だからこそ中に入れたのだ。
だが、だれが予想できようか。
生身の人間でありながら、強化スーツを上回る強大なパワーを持つ存在などいるはずがない。目の前の破壊はこの世界の常識を根底から覆す異常事態だった。
ユイトは異様な雰囲気にのまれて立ち上がるヤクザたちに向けて、憎悪と殺意を込めてほほ笑んで見せた。
「これで。
誰も助けには来れず。
お前たちの誰も、逃げられはしない」
わかっていることはただひとつ。
こいつは……
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