第四話 武具店赤猫
まさかの超大物だった。
こんな大きな店を持っていて、ギルドにも顔が効くらしい商会のトップ。
要するに、大企業の社長さんって事だよね!?
いやいや、おかしいでしょ!
何で社長が自分の店の中で接客とかしてんのよ!?!?
「接客は私の趣味ですね。まあ、従業員からはやめてくれと言われておりますが」
いや、そらそうでしょ!
超やりづらいわ!
「で、よろしければお名前をお伺いしても?」
「あ!ごめんなさい!私も自己紹介がまだでしたね。私はエトと言います。一応、鍛治師です。腕前は……まあ、そこそこですね」
「!?」
私が自己紹介をすると、ステラさんは一瞬、驚いた様な表情を見せた。
何となく、私の名前に驚いていた様な気がする。
「なるほど。エトさんですか。とても素晴らしいお名前です」
「そ、それはどうもありがとうございます」
何だろう、私の名前って何か変わってるのかな?
「やはり実際に店頭に立って接客するというのは良いものですね。今日はとても良い出会いに巡り合えました」
「でも、従業員さん達がかわいそうだから程々にしてあげて下さいね」
「そうですね。善処します」
そう言ってニッコリ微笑むステラさん。
こりゃ、善処する気はないね。
「では、今後ともご贔屓に」
「いえ、こちらこそ名刺と金貨まで貰っちゃって、逆にありがとうございます。また来ますね」
「はい。お待ちしております」
そう言ってお辞儀をした後、この店を出て振り返る。
「ステラ商会……か。ゲームの時はそんな店なかったよね」
やはり、色々と変わっていそうだ。
◆
その後、いろんな店を巡り、様々な情報を得ることが出来た。
まずは貨幣価値だ。
これはおよそ、1G=10円の感覚で問題なさそうだ。
ゲームの時とも恐らくそれほど変わりはないと思われるが、ゲームでは日用品などは売っていなかったので、あまり比べる意味はない。
まあ、そもそも日本とこの世界での、物の価値自体が違うのであくまでも目安でしかないが。
次は、売られている商品について。
基本的に店で売られている商品のほとんどがランクDからFの間のものだった。
ランクC以上の商品となると、値段が高くなりすぎて売れないので、店にはあまり置いていないという事らしい。
そして私の装備について。
一部の商人や職人には、私の装備が普通のものではないと言う事は何となくわかるらしい。
そういう人達とは少し会話をして、交友を深めておく事にした。
職人にとっては、横の繋がりって大事だからね、
そしてもう一つ得た情報。それは、
『武具屋赤猫』が存在しているという事。
そう、私の住居兼店舗だ。
ここまで全部、私の知らない店ばかりだったので、自分の店があった場所にも別の店が建っているんだろうと、正直諦めていた。
なので、これにはかなり驚いたと同時に、少し安堵した。
聞くところによると、私の店は最高級品の武具を取り扱う店として認知されているらしい。
確かに、ゲームの時はランクB以上のものしか並べていなかったので、その影響かもしれない。
別に高級品を扱っていたつもりはないが、メインの商品は高レベル帯向けの装備品だったので、確かに高級品とも言えなくもない。
取り敢えず、住むところがあると言うのは、今の私にとって何よりの朗報だ。
というわけで、当初の目的の商業ギルド会館へ向かう前に、私の店『武具屋赤猫』へ向かう事にする。
◆
私の住居兼店舗の『武具店赤猫』は、城塞都市ソレントの西側の商業区にある。
その商業区の中でも、南西の場所にあり、どちらかと言えば城壁側の南寄り。
商業区と生産区の境目に近い場所にある、決して立地のいいとは言えない様な場所だった。
「あった!間違いない、私のお店だ!」
商店街道の大通りから外れてしばらく歩き、私の店にたどり着く。
そこにはとても見覚えのある建物があり、看板には『武具店赤猫』と書かれてあった。
建物自体は多少雰囲気の変わった部分もあるが、そんなに言うほどではない。
私の知っている冒険者ギルドも多少変わっていたし、ゲームの世界が現実化した際の弊害というか影響というか、まあ、そういう物なんだろうと納得できるくらいには、しっかりと原型を留めていた。
「さて、中はどうなってるかな?てか、何を店頭に並べてたっけ?値段も見直し必要だよね」
そんなことを呟きながら扉の前まで来た私は、その扉に架けられていた木札を見て首を傾げた。
「営業中?」
若干嫌な予感を感じつつ、ドアノブに手をかけ、扉を開ける。
「やっぱり……」
店内は様々な武器や防具がとても丁寧に並べられ、確かに高級店という感じの店になっていた。
そして、店の一番奥。
カウンター奥の、店主のいるべき場所に、見知らぬ男が座っていた。
「いらっしゃい」
白髪まじりの短髪に白髪まじりの無精髭。
遮光メガネの様なゴーグルを首に掛けており、見た目は30~40歳くらいの強面顔の、中年の男性だった。
私は店の中に入り、売られているものを一通り見た後、カウンターの奥にいる男性に声をかけた。
「すみません、このお店の方ですか?」
「あぁ?それ以外にどう見えるんだ。馬鹿にしてんのか?」
「あ、いえ、ごめんなさい!」
え、何この人!?いきなり客にこの態度とか何考えてんの!?
てか、条件反射で思わず謝っちゃったけど、ここ私の店だよね!?私も何で謝ってんのよ!
「買い物しねえんなら帰ってくれ。俺も暇じゃ……って、おい、お前。同業だな?何者だ」
「え、どうして?って、あ、そうか」
この人も私の装備を見て何か思うところがあったんだね。
腰には槌も装備してるし、そりゃ、本職の鍛治師にはわかっちゃうよね。
「その鉄槌もその服も、かなりいい物だろ?差し詰め、エトに憧れて鍛治師の真似事をしてる、何処ぞの富豪の令嬢って所か」
「え??」
「どうして、いい所のお嬢さんが鍛治師になんて興味を持ったのかは知らんが、それがエトだってんなら、まあ、仕方ない。ありゃ別格だからな」
「ちょちょ、あの、え、ちょっとまって!」
「あれはマジやばい。俺もエトの作った作品をいくつか持っているが、本当に惚れ惚れしてしまうぜ」
「いやだから、ちょっと待って、あの、もしもーし」
「よし、しゃーねーな。ミーハーな困った嬢ちゃんだが、俺のエトコレクションからいくつか作品を見せてやるぜ。エト好きには悪い奴はいねえって言うしな。ちょっと待ってろ」
「いや、だからちょっと待って……って、行っちゃった」
なに今の。
だいぶ圧倒されちゃったんだけど。
てか、あの人が一番ミーハーだよね。
エトコレクションて一体なによ!?
てか、エトって、それ私の事?それとも同じ名前の別人?
いやいや、ここは『武具店赤猫』だよ?
この店でエトって名前が出るなら、それは私の事でしょ。
でも、今の人の反応からすると、あの人の知ってるエトは、私じゃない別のエトって事になるよね。
え?どゆこと?
「おう、待たせたな。それじゃ最初から取っておきを見せてやろう!とある筋から手に入れたもので、この輝きは間違いなく本物だぜ!これだっ!!」
武器名:青銅の直剣+
武器ランク:C
攻撃力:173
耐久力:69
生産者:ホルエン・ヴェントール
って、それエトの作品じゃないよ!!!!
誰だよホルエンって!!
偽物つかまされてますよ!!
「どうだ!凄いだろう!!」
「は、はあ」
いやまあ、武器自体は悪くないと思うよ?エトの作品じゃないけど。
青銅でランクCなら限界まで素材の性能を引き出せてるし、何気にハイクオリティだしね。
かなりの腕前の鍛治師の作品ではあるね。エトのじゃないけど。
「次はこれだっ!!エトがまだ駆け出し初心者だった頃の作品だ!!」
「ほう」
武器名:ロングソード
武器ランク:D
攻撃力:32
耐久力:25
生産者:サンドラ
うん。サンドラさんのロングソードだね。
別に、特別良いわけでも悪いわけでもない、とにかく普通の、標準的な出来の剣だ。
てかこれ、さっきの商店街道で全く同じのが3500Gで売ってたよ?
日本円換算すれば3万5千円くらいだし、たぶん量産品だね。
「そして最後はこれだ!!特にこれと言ったエピソードは無いが、見た目がなかなか特徴的な作品だ!!」
「げっ」
武器名:ドラゴンバスター
武器ランク:A
攻撃力:423
耐久力:205
生産者:エト
これ、私のだ。
しかもこれ、作った記憶もある。
作ったはいいけど数値が思ったより伸びなくて、何度か作り直した時の一本だ。
そう言えば、そのまま店の隅っこに放置したままだった気がする。
「どうだ!!どれもこれも凄かっただろう!!」
「え、あ、はいそうですね。ありがとうございました」
「いいって事よ。今から500年前に颯爽と現れ、そして突然消えた伝説のランクS鍛治師エト。まあ、鍛治師にとって、憧れるなって方が難しいよな」
「え?500年?ランクS??え???」
いや、ちょっと待って。
なんか今、さらっと凄いこと言わなかった?このオジサン。
もっと詳しく!
「なんだ、そんなことも知らなかったのか?
この『武具店赤猫』はもともと、伝説の鍛治師エトの店だって事は嬢ちゃんも知ってるだろ?だが、エトはある日突然姿を消してしまったらしいんだ。
それが大体今から500年くらい前だって話しだ。
その後、そのエトに憧れた鍛冶師達がこの店を引き継ぎいで、今に至るってわけだな。
俺が今25代目だから、まあ、だいたい500年くらいってのはあってると思うぜ」
「そう、なんだ」
はあああ!?!?!?!?
500年前!?!?!?!?
え、それじゃここは、500年が経過したゲームの世界って事?
ちょっと召喚者さん、何してくれてんの。
だいぶややこし過ぎるんですけど!!
どうせならもっと普通に召喚してよ!
いや、別に召喚して欲しかったって意味じゃ無いよ!
どうせ呼ぶなら普通に呼んでって事!
「嬢ちゃん、どうした?」
「え、ううん。何でもない。色々教えてくれてありがとう」
「いいって事よ。嬢ちゃんは中々見所がありそうだ。何かなくてもまた来るといい」
「ありがと。また来るよ」
何をもって私に見所があると思ったのかは知らないが、そっちはもうちょっと見る目を養った方がいいと思う。
そんな事を考えながら、私は店を後にした。
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