第19話 初食堂



 全員が席について、昼食を食べ始める。


 優香ちゃんと誠也は弁当を持ってきておらず、食堂で買った定食を食べていた。

 そして小林くんも弁当を持ってきていないようで、定食とさらに自分でおすすめしていた焼きそばパンを買っている。


「んっ、普通に美味しいです!」

「そうだな、いつも安定して普通に美味しい。だが量が足りないことが多々あるから、焼きそばパンを食べれば完璧だ」

「なんで健吾はそんなに焼きそばパン推しなのかわからないけど、女の子には定食だけで十分だよ。ね、優香ちゃん」

「えっ、あ、はい、普通はそうだと思います」

「……なんで優香ちゃん、片手に焼きそばパン持ってるの?」

「買ってきました! んっ、これも美味しい!」

「奈央、私は小学生の頃から知ってるけど、優香ちゃんは結構食べるのよ」

「定食も無料だったので大盛りを頼みましたし、焼きそばパンもあと一つくらいならペロリです!」

「そ、そうなんだぁ。その細い身体のどこにそんな量が入ってるのか気になるけどね」

「私は逆にお弁当をそれだけしか食べてないのにおっぱいに栄養が偏りまくってる奈央先輩の方が気になりますけど。なんですかそういう機能が身体に備わってるんですか私にも装着させてくださいよ」

「ふふー、取り外し不可なんだよぉ。それと健吾、チラッと見てきたのバレてるからねキモイよ」

「ブフッ!? い、今のは話の流れだと誰だって見ちゃうだろ! 別に俺だって見たくて見たわけじゃねえから!」

「誠也くんは全く見ずにただ黙々とご飯食べてるけどね?」

「いや、あいつは別だろ。というか誠也はなんで本当にこんな静かなんだ? 昨日のカフェの時から様子が変だが」


 小林くんの言う通り、今の今まで会話に全く入ってこない誠也。


 いつもなら一番大きな声で入ってくるけど。

 それにご飯の手も進んでない。


「誠也、大丈夫?」

「っ、だ、大丈夫だよ、香澄ちゃん」

「しっかり食べないと、午後に体育の授業もあるし身体もたないよ?」

「うん、ありがとう」


 とても素直にそう言った誠也。

 いや、いつも誠也は素直なのだが、普段なら「ありがとう! 香澄ちゃんは優しいね! 結婚しよう!」くらいは言うのに、今日はそれがない。


「お兄ちゃーん? そろそろ本調子に戻ってよー」


 すでに定食を食べ終え、焼きそばパンを食べている優香ちゃんが少しめんどくさそうにそう言った。


「今日は午後からみんなで遊びに行こうって話をしてるんだから!」

「えっ、そうなの?」


 私が言われたわけじゃないのに、思わず聞き返してしまった。

 今日の授業は少し早めに終わるのだが、遊びに行くというのは聞いていない。


「そうですよ! みんなでアラウンドワンに行こうって約束です!」

「知らなかったけど、そうなのね」


 アラウンドワン、確かいろんなスポーツや遊びが出来るアミューズメント施設だ。

 ボウリングやカラオケ、その他のスポーツをいろいろと楽しめる。


「今日はバスケ部の活動が男女共にないからな。俺も行くぜ」

「私も行くよぉ。バスケ部の男子が来るのは癪だけど」

「俺もバスケ部女子のよく分からないやつが来るのは嫌だけど、久しぶりに誠也達と思いっきり遊びたいしな。少し嫌なやつが来ても我慢する」

「……ちっ、土に還ればいいのに」

「ほらお兄ちゃん、楽しい楽しい遊びが放課後に待ってるんだから、いつも通りに早く戻って!」


 優香ちゃん、よくあの二人の会話をスルー出来るね。


 そろそろ止めないといけないのかなぁ、とか思ってたけど、優香ちゃんはガン無視。

 いや、多分それが正解なんだろうけど。


「……ああ、わかった! 香澄ちゃん!」

「え、なに?」

「昨日、カッコいいって言ってくれて嬉しかった! ありがとう!」

「ちょ、誠也、こんなところで何を……!?」


 ここは食堂、一年生から三年生の生徒達が集まっている場所だ。

 二年や三年生の人達は「はいはいあの二人ね」といった感じだが、一年生の人達はまだ私達のことを知らないから、とても驚いている。


「いや、昨日は恥ずかしすぎて、お礼も言えてなかったから」

「そ、そうかもしれないけど、こんなところで言うな……!」

「わかった! じゃあ後で二人きりになったらゆっくり――」

「言い方を考えろ、バカ!」


 そんなこんなでようやく調子が戻ったらしい誠也。


 ……もう少し静かな誠也を見ていたかったのは、内緒だ。


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