第6話 花見
「バカなの? 頭の中に蛆でも湧いてるの、バカ兄ちゃん?」
「ごめんなさい」
「なんで出会って三秒でプロポーズしてるの? 昨日の作戦も覚えてないの? そんなことないよね、無駄に頭良いんだから」
「ありがとう」
「褒めてない、貶してるから」
これでも学年一位をずっとキープしてるからな。
「あのさ……兄妹二人で何の話してるの?」
香澄ちゃんが首を傾げながらそう聞いてきた。
今は俺が出会ってすぐにプロポーズしてフラれてから数十秒後。
優香に首根っこ掴まれて香澄ちゃんから離れ、俺が道端で正座させられて怒られている状態だ。
さすがに下がコンクリートだから、正座すると少し痛いな。
「ごめんなさい、香澄お義姉ちゃん。ちょっとお兄ちゃんが私との約束を三秒で破ったから、説教をしてたんです」
「……まあ、そんな感じなのは見てわかるけどさ」
「このアホ兄ちゃん、香澄お義姉ちゃんのことになると本当にバカになるんだから」
「俺はアホなのかばかなのか、どっちなんだ?」
「どっちもだよ、アホバカ兄ちゃん」
悲しい、いつから優香はこんなに兄である俺に暴言を吐くようになったのか。
……俺が悪いから言い訳しようがないんだけど。
「優香ちゃん、何に怒ってるのかはわからないけど、誠也も悪気はないと思うから。ほら、こんな奴だし」
「まあわかってますけど、むしろ悪気がないから困ってるんですよね……」
優香が大きなため息をしながらそう言った。
うん、悪気はないんだ、作戦を無視しようとしたわけじゃない。
ただ香澄ちゃんが今日も可愛すぎたから、思わずプロポーズしてしまったんだ。
今日の香澄ちゃんの格好は白の裾が長めで膝あたりまであるカーディガンを羽織っていて、春らしくて可愛らしい。
下はジーパンで、上がふわふわした感じなのにでジーパンでカッコよく決まっている感じもあって、可愛さと美しさが両立している。
「こんな可愛い香澄ちゃんを見て、プロポーズするなと言う方が無理があるよ!」
「……ありがとう」
「お兄ちゃん、香澄お義姉ちゃんが可愛いのはいつものことだと思うんだけど」
「そうだけど、いつも俺の想像を超えてくるからズルいんだよ」
「お兄ちゃんの想像力が弱いだけなんじゃないの?」
「そうだとしても、香澄ちゃんが可愛すぎると思う」
「ふ、二人とも、無駄なこと喋ってないで、早く花見行くよ」
香澄ちゃんが少し恥ずかしそうにそう言って、先に歩いて行ってしまう。
「あっ、お義姉ちゃん、待って」
「ちょ、待って、足痺れて動けないんだけど……!」
「じゃあねお兄ちゃん、頑張って追いついてね」
「くっ、薄情な妹だ……!」
「作戦を一瞬で忘れたのはどっちかな?」
「俺です、ごめんなさい。頑張って追いつきます」
すぐに足の痺れは治り、二人に追いついた。
ゆっくり歩いてくれていたのは、やはり香澄ちゃんも優香も優しいと思った。
今は三月終わりくらいで、桜はほぼ満開となっていた。
近くにとても桜が咲いている公園のような場所があったので、三人でそこに向かった。
「うわー、すごい!」
見上げれば空を覆うように咲く桜に、優香が目を輝かせてそう言った。
「本当にすごいわね。久しぶりに来たけど、やっぱりここは綺麗ね」
香澄ちゃんも軽く歩きながら、桜を見上げて微笑んでいる。
「……はぁ、麗しい」
「……一応聞くけど、お兄ちゃん。それは桜が? 香澄お義姉ちゃんが?」
「もちろん、桜をバックにして微笑んでいる香澄ちゃんが」
「うん、香澄お義姉ちゃんをガン見しながら言ってたから、そうだと思ったよ」
「……とりあえず、早く場所を見つけて座りましょう」
香澄ちゃんがそう言ったので、俺達は歩きながらレジャーシートを敷けるところを探した。
結構有名な場所だから混んでいたけど、運良くすぐに見つけられて座ることが出来た。
「香澄ちゃん、お弁当作ってきてくれたんだよね? ありがとうね」
「ううん、簡単なものばっかりだから」
昨日連絡した時に作ってきてくれると言っていたので、本当に嬉しい。
「私も嬉しいです! 香澄お義姉ちゃんの料理、久しぶりに食べるから!」
「ふふっ、優香ちゃんもいっぱい食べてね」
「はい!」
優香もとても楽しそうだ。
この一年、優香は高校受験であまり香澄ちゃんと遊べていなかったからな。
久しぶりに会って遊んでいるから、嬉しいのだろう。
「だが優香! 香澄ちゃんは絶対に渡さないぞ!」
「何言ってるの? 早く香澄お義姉ちゃんのお弁当食べようよ」
「あっ、はい、そうですね」
俺達は香澄ちゃんが作ってくれたお弁当を食べ始める。
「んっ! 美味しい! さすが香澄お義姉ちゃん!」
「ありがとう、優香ちゃん」
「ん、いつ食べても美味しいね、香澄ちゃんの料理は」
「それは冷凍のものだけどね、誠也」
「あはは、お兄ちゃん恥ずかしいー」
「わかってないな、優香……香澄ちゃんが解凍して作ってくれて香澄ちゃんの愛を感じるから、普通の冷凍よりも抜群に美味しいんだよ!」
「はっ! そ、そんな、バカな……!? じゃあ私も食べる! 本当だ、美味しい!」
「……まあ嬉しいけど、そこまで変わらないと思うけど」
そんなバカなことをしながら、お弁当を食べ進める。
いや、俺は本気で愛情が入ってるから美味いと思ってるけどね。
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