「結婚しよう」「むり」を繰り返していた幼馴染に、1日だけ求婚しなかったら心配して甘えてきた 

shiryu

第1話 三条誠也から見る、幼馴染


 一目惚れだった。

 小学一年生の時、初めて顔を合わせた入学式が終わった後。


 その女の子――今市香澄に、恋をした。


「けっこんしてください!」


 俺は小学一年生ながらに、結婚を申し込んだ。


「……えっ、わたし?」


 香澄ちゃんは目をまん丸にして、自分のことを指差してそう言った。

 とても可愛らしくて、さらに胸がドキドキした。


「うん!」

「イヤだけど……」

「はうぅ!?」


 フラれた。


 落ち込んだ、泣いた。

 小学一年生ながらも、人生で一番傷ついた日かもしれない。


 しかし俺は、諦めなかった。


 次の日、小学一年生で学校二日目。

 登校中に会ったことを覚えている。


 運命だと思った。


「かすみちゃん!」

「えっ、あっ……せいや、くん」

「おれの名前、おぼえてくれたの!?」


 俺は誠也、三条誠也という名前だ。

 名乗った覚えはなかったけど、覚えてもらっていた。


「あんなことを言われたんだから、おぼえるよ……」

「うれしい! かすみちゃん、けっこんしよう!」

「イヤだけど」

「ぐぅ!?」


 またフラれた。

 傷ついた、人生の中で一番と同じくらいに。


 しかし俺は諦めることはなかった。


 ――次の日。

「かすみちゃん、おはよう! そういえば席がとなりだね!」

「うん、いまさら?」

「うんめい? ってやつだよね! かすみちゃん、けっこんしよう!」

「イヤだけど」

「んんっ!?」


 ――翌週。

「おはよう、かすみちゃん! 今日もかわいいね!」

「あ、ありがとう……」

「赤くなった顔もかわいい! かすみちゃん、けっこんしよう!」

「イヤだけど」

「ぐふぅ……!」


 ――1ヶ月後。

「おはよう、かすみちゃん。あれ、髪切った?」

「うん、ほんの少し。よく気づいたね」

「かすみちゃんのことずっと見てるからね!」

「……そっか」

「じゃあかすみちゃん、けっこんしよう!」

「イヤだけど」

「はうぅ!?」


 ――1年後。

「かすみちゃん、また同じクラス、また隣の席だね!」

「クラス替えはまだしてないから、同じクラスになるのは当たり前だけど」

「そっか! じゃあかすみちゃん、けっこんしよう!」

「イヤ」

「がはっ……!」


 ――三年後。

「かすみちゃん! 大丈夫!?」

「せいや……? なんで私の部屋にいるの……?」

「かすみちゃんが風邪で休んだから、今日のプリントを届けにきたんだよ! そしたらかすみちゃんのお母さんに通されちゃった」

「おかあさんのバカ……!」

「起きなくても大丈夫だよ、寝てて。辛くない?」

「大丈夫……だいぶ、よくなったから」

「嘘だよ。かすみちゃん、すごい辛そう。無理しないで」

「……うん」

「かすみちゃんのお母さんにゼリーを持ってって言われたから。これ食べる?」

「……うん、食べる」

「はい、あーん」

「……あーん」

「っ、かわいい……! かすみちゃん、結婚しよう!」

「うん……やだ」

「えっ? ど、どっち?」

「……むり」

「ぐはっ!?」

「……ふふっ、ありがと、せいや」

「えっ、なんか言った?」

「何も言ってない」


 ――六年後。

「香澄ちゃん、小学校卒業だね! ずっと同じクラスだったから最高だったよ!」

「ほんと、二回クラス替えあったけど、まさかずっと同じとは思わなかった」

「中学も同じところだけどよろしく! じゃあ香澄ちゃん、結婚しよう!」

「むり」

「ぎゃぁ!?」

「ふふっ、中学もよろしく、誠也」

「う、うん、よろしく……」


 ――八年後。

「誠也? 大丈夫?」

「あれ……香澄ちゃん? なんで俺の部屋に香澄ちゃんが……? もしかして夢? それか俺、香澄ちゃんと結婚したのかな?」

「夢じゃないし結婚もしてない。誠也が風邪で休んだからプリントを届けに来たの。小学校の時にしてもらったお礼よ。部屋に来たのは、その、誠也のお母さんが上がっていってって」

「母ちゃんナイス……!」

「というか、誠也の部屋汚くない? 私も掃除は得意な方じゃないから、二人とも苦手だったら困るんだけど」

「なにが困るの……?」

「えっ? あ、いや! な、なんでもないわ! それより、大丈夫なの? 今まで皆勤賞だった誠也が休んだくらいだから辛いと思うけど」

「香澄ちゃんを残して死ぬわけにはいかないから、大丈夫」

「いつも通り変なことを言ってるから大丈夫そうね。これ、誠也のお母さんが買ってきたプリンだって。ここに置いとくね」

「えっ、食べさせてくれないの?」

「なっ!? も、もしかして誠也、私にしたことを覚えてるの!?」

「俺が香澄ちゃんのことで忘れることなんてあるわけないよ」

「くっ……わ、わかったわよ。はい、あーん」

「あーん……んっ、美味しい。香澄ちゃんが食べさせてくれたから、一万倍美味しく感じる」

「ば、ばか……」

「かわいい……香澄ちゃん、結婚しよう」

「むり」

「ぐふっ……ごほっごほっ」

「バカなこと言ってないで早く治して、明日は学校来るのよ。じゃあね、誠也」

「ま、また明日、香澄ちゃん」


 ――九年後。

「香澄ちゃん、中学卒業だね! ほら、卒業アルバムの後ろのところ、香澄ちゃん用に見開きを開けといたから、書いて!」

「いや、見開きもいらないから。片隅の方に一言書くだけで十分」

「そう? じゃあそこに大きく、『将来は夫婦だね』って書いて」

「……『高校でもよろしく、香澄』って書いとくわね。誠也、私の卒業アルバムにも書いて」

「もちろん! 見開きに大きく『結婚しよう! 誠也』って書けばいいでしょ?」

「……あんただからそんなことだと思ったけど。書くとしても端っこに書いてね」

「わかった――よし。じゃあ香澄ちゃん、中学も卒業したし、結婚しよう!」

「むり」

「ぐはぁ!?」

「中学もずっと同じクラスだったから、高校では違うクラスになりたいわね」

「俺はずっと同じクラスがいい! そしていつかは同じ家に住みたい!」

「はいはい。じゃあ高校でもよろしく、誠也」



 ――香澄ちゃんと俺が出会ってから約十年。


 俺達は高校一年生になった。


「香澄ちゃん、おはよう」


 高校一年生となれば、香澄ちゃんも俺も出会った頃の容姿はもちろんしてない。

 つまり香澄ちゃんは俺が一目惚れした時と全然違う容姿をしているのだ。


 それなのに――。


「んっ、おはよう、誠也」


 艶やかな青みがかかった黒髪。それは出会った頃から変わらないが、子供の時よりも長くなり、背中あたりまで伸びている。


 おそらくアイロンとかで巻いているのか、肩から下の髪がウェーブがかっていて、香澄ちゃんの美しさが倍増していた。


 顔立ちもやはり小さい時から少し変わっていて、小さい頃は可愛い一択だったんだけど、今は目尻が少しつり上がっていて、クール美人といった雰囲気がある。


 子供の頃から笑顔を見せる回数は多い方ではないけど、普通にしていると美人で可愛く、笑顔も最高に可愛い。

 小さい頃から雰囲気や容姿が結構変わったのに、俺はまだまだ香澄ちゃんのことが好き。


「なんなら香澄ちゃんに毎日一目惚れをしている気がする……!」

「誠也、何言ってんの?」

「香澄ちゃんが今日も可愛いなって話」

「はいはい、ありがと。早く学校行かないと遅刻するよ」

「そうだね」


 いつも通り軽くあしらわれながら、俺と香澄ちゃんは高校へと向かう。

 俺達が通う高校は歩いていける距離で、どちらかが日直とかで早めに行かないといけない日以外は、一緒に登校することが多い。


 二十分ほど歩き、高校へ着いた。


「はぁ、至福の時もここまでか……中三までずっと同じクラスだったのに、高校で初めて違うクラスになるとは……」

「逆に九年間もずっと同じクラスだったのがすごいのよ」

「くっ、じゃあね香澄ちゃん! 俺はいつも通り、ずっと香澄ちゃんのことを思いながら授業を受けるよ……!」

「授業に集中しなさい」


 断腸の思いで香澄ちゃんと教室の前で別れ、俺は自分のクラスに入った。

 今は三月なので、香澄ちゃんと違うクラスなのもあと一月くらいの辛抱だ。


 四月になったらまたクラス替えがあるし、今度こそ香澄ちゃんと同じクラスになれる……はずだ。

 これでまた違うクラスだったら、俺は死ぬ。


 元旦に神社で一万円を賽銭に入れて願ったから大丈夫だと思う。

 本当は十万くらい入れたかったが、一緒に行ってた香澄ちゃんに「それはやめなさい」って言われたからやめた。


 しかし、また昼休みまで香澄ちゃんとは会えないのか……辛い。


 前に授業間の休み時間の度に会いに行っていたら、「さすがにうざい」って言われてから昼休みまでは会わないことになった。

 あの時は心臓が止まったかと思ったぜ。



 授業を四つほど受けて、昼休みの時間になった。

 香澄ちゃんが教室にいないと時間が長く感じるな。


「よし、香澄ちゃんに会いに行こう!」


 俺は立ち上がり、弁当を持って隣のクラスへと向かう。

 ドアを開けて香澄ちゃんの席に近づいていく。


「香澄ちゃん、一緒にご飯食べよう!」

「ごめん、今日は友達と食堂で食べる」

「かはっ!?」


 撃沈した。

 俺は落ち込みながら自分の教室へと戻った。


 この一年間でもう慣れたけど、俺は本当なら毎日一緒に食べたい。


 もっと欲を言うなら毎日の朝昼晩を一緒に食べたい……が、それは結婚するまでは出来ないから我慢するしかない。


「おっ、誠也、今日は今市さんと食べないのか?」

「友達と今日は食べるって……辛い」

「ドンマイ。じゃあ今日は俺達と食べるか」

「ああ、ありがとう」


 ということで俺はクラスの男友達と一緒に食べることに。


 高校に入って約一年、俺が香澄ちゃんが大好きで毎日「結婚しよう!」とプロポーズしていることは、一年生だけじゃなく三年生までに知れ渡っている。


 つまり俺が毎日「むり」とフラれているのも知られているということだ、なんとも恥ずかしいことか。

 いや、香澄ちゃんを好きな気持ちが恥ずかしいなんてことはないから、別に大丈夫か。


「しかし誠也、お前は本当にすごいよなぁ」

「ん? 何がだよ、健吾」


 高校で知り合い仲良くなった男友達、小本健吾の言葉に俺は首を傾げた。


「今市さんに小学校の頃からずっと告白してるんだろ?」

「そうだね、正確にいえば小学一年生の入学式の日から」

「約十年、ずっと言い続けてるんだよな?」

「もちろん、この一年もずっと言ってただろ?」

「改めてすごいというか、バカというか……諦めないのか?」

「諦める? なんで?」

「だって十年もずっと断られてるんだろ? 普通だったらもう諦める人が多いよ」

「んー、まあそうなのかもな。だけど俺は子供の頃からずっと言い続けてるから」

「あー、じゃあ断れるのに慣れたのか」

「いや慣れてないけど? 毎回断られる度に、吐血するくらい辛いけど?」

「そんなにかよ!?」


 当たり前だろう、フラれてるんだぞ。

 もちろん初めて断れた時よりかは耐性がついているけど、それでも毎回本気で「結婚しよう!」と言っているのだから。


「じゃあなんで諦めないんだ?」

「そりゃ香澄ちゃんがずっと好きだからだよ」

「お、おお……そんな真っ直ぐ言われると、なんも言えねえな」

「逆にずっと好きだからこそ、諦めたくないんだ」

「そ、そっか。それならもうなんも言わねえよ」


 少したじろいだように健吾がそう言って弁当を一口食べた。


「そうだ、誠也。今日の放課後にクラスの奴らとカラオケとか行こうって話してんだけど、誠也も来るか?」

「んー、どうしようかなぁ……」

「もう三月で高一も終わってクラス替えがあるし、最後にクラスのみんなで遊ぼうって話なんだよ」

「そうか……じゃあ行こうかな」

「よし、そうこなくっちゃ!」

「香澄ちゃん呼んじゃダメ?」

「違うクラスじゃねえか」

「冗談だよ」


 さすがにそこに香澄ちゃんを呼ぶほど空気が読めないわけじゃない。

 香澄ちゃんが来ても場違いで気まずいと思うし。



 放課後になり、クラスのみんなでカラオケに行くことになった。

 行く前に本当なら香澄ちゃんに会いたかったんだけど、隣のクラスに行ったら香澄ちゃんの姿がなかった。


 香澄ちゃんの友達の子に聞くと、どうやら先生に用事があるということで職員室に向かったようだ。

 すれ違いになってしまったようで運が悪かった。


 いつもならもちろん待つのだが、クラスのみんなを待たせている。


「香澄ちゃんによろしく言っといて」

「はーい」


 そして俺はクラスのみんなでカラオケへと向かった。



 数時間後、夜の十時ぐらいに解散となった。

 結構長いこと遊んだなぁ。


 最初はカラオケに行ってクラスのみんなで回し回しに歌って。


 夕飯時になってカラオケを出て、そこからはファミレスに移動してずっと駄弁っていた。

 気づいたらこんな夜遅くの時間だったからビックリした。


 高校に入って最初のクラスメイトだから、そう思うと少し感慨深いなぁ。


 これで香澄ちゃんも同じクラスだったら本当に最高だったのに。

 そう思いながら一人で道を歩き、家の前に着いたのだが……。


「えっ、香澄ちゃん?」


 家の前に香澄ちゃんが立っていた。


「……誠也、帰ってくるの遅かったね」

「そう、だね。クラスのみんなと遊んでたら遅くなっちゃって。いや、そんなことより、なんで香澄ちゃんが俺の家の前にいるの?」


 制服じゃなく私服なので、一度家に帰ってからうちに来たようだ。


「いや、別に。誠也の家の前にいたわけじゃなくて、コンビニ帰りだし」

「そ、そう?」


 おそらく嘘だ、レジ袋も持ってないし、コンビニもこっちの方には特にない。

 それに長い付き合いだ、香澄ちゃんが嘘をつく時に右下の方を見ながら言うことは知っている。


 なんで嘘をついたのかはわからないが、こういうのは聞かないほうが身のためだ。


「家まで送っていこうか? もう夜も遅いし」

「……うん、お願い」


 香澄ちゃんはすんなりと俺の提案を受け入れた。

 いつもなら「別に大丈夫、じゃあね」という感じなんだけど……。


 香澄ちゃんの家と俺の家は、結構近い。歩いて五分くらいの距離だ。


「そろそろ高校一年生も終わりだね」

「……んっ、そうね」

「俺のクラスはそれがあって今日はみんなで遊んでたんだけど、香澄ちゃんのクラスはそういうのはないの?」

「さぁ、知らない。仲良い友達に呼ばれたら行くかも」

「そっか。俺も初めて香澄ちゃんとクラス離れて悲しかったけど、意外と楽しかったなぁ」

「っ……そう」


 クラスの男子も女子もいい人ばかりで、優しい人ばかりだった。

 中学生の時とか、最初のうちは俺が香澄ちゃんに求婚しているのを見て「何この人ヤバい……」と思われて避けられることが多かった。


 いや、冷静に考えればそれが正解だと思うけど。


 だけど今のクラスの奴らは、もちろん最初に俺が求婚して速攻でフラれてるのを見てビックリしてたけど、今ではそれも受け入れて仲良くしてくれている。


 それが意外と心地よかったな。


「――じゃあ、私とはもう……」

「ん? 香澄ちゃん、何か言った?」

「……いや、なんでもない」


 香澄ちゃんが何を言ったのか聞こえなかったが、俺に向けて言った言葉ではないようだ。

 そんな話をしていると、すぐに香澄ちゃんの家まで着いた。


「じゃあね、香澄ちゃん。また明日」


 俺はそう言って、香澄ちゃんに手を振って帰ろうとしたんだが……。


「……な、なんか他に言うことはないの?」

「えっ?」


 香澄ちゃんにそんなことを言われて、立ち止まる。

 他に、何か言うこと……?


「えっと……風邪引かないようにね?」

「っ、もういい! また明日!」

「えっ、あ、うん、また明日……」


 香澄ちゃんはなぜか怒ったように、それでいて少し悲しそうにしながら家の中へ入っていってしまった。

 あんな顔、初めて見たかもしれない……。



 その後、俺は家へと帰って自室でベッドに寝転がっていた。

 なんで香澄ちゃんにあんな顔をさせてしまったのかをずっと考えているのだが、答えは全く出ない。


 香澄ちゃんに連絡アプリでメッセージを送っても何も反応ないし……。


 くそ、今日はクラスの奴らと遊んで疲れたから、眠くなってきた。

 もう寝るしかないな……香澄ちゃんには明日、俺が何かしたのならしっかり謝ろう。


 なんか今日は習慣になっていたことをしてない気がしたけど、睡魔に勝てずにそのまま眠ってしまった。


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