「50」知らない友達のお誘い

「どうも、こんにちは」

 玄関で待ち構えていた男の子は、俺の顔を見るなりニコリと愛想の良い笑みを浮かべた。

 当たり前であるが、知らない顔である。

 将来の知人たちの顔を思い浮かべてみるが、どれも当て嵌まる人相の人はいなかった。


──きみ、誰?


 素直にそう聞ければどんなに良いことであろう。

 さすがに、俺を尋ねてくれた友人を知らぬ人間扱いは失礼かと思い、出掛かった言葉を飲み込んだ。

 こちらが知らずとも向こうは俺のことを知っているのだから、上手く話しを合わせれば円滑に事は進むに違いない。

 どこかのタイミングで、向こうから名乗ってくれれば幸いである。


「えっと……」

「用意は出来てるかな? 早く出発しようよ」

 俺が口を開こうとするより先に、男の子の方から誘いを入れてきた。


──え?

 俺はおばさんの顔を見た。

 遊びに行く約束をしていれば、おばさんに伝えていそうなものであるが──。

 どうやらそんな話は聞いていないらしく、おばさんは小首を傾げていた。


「あ、あぁ……ごめん。用意するから、ちょっと待っててね……」

 待たせのも悪いが、約束をすっぽかしてしまっているのなら尚の事申し訳がない。

 急いで用意をしなければ──。


──グゥ〜!


 着替えをしに部屋へ戻ろうとしたところで、男の子のお腹が大きく鳴ったのが聞こえた。

 つい足を止め、そちらに目が行ってしまう。

 男の子は恥ずかしそうに、顔を赤らめると俯いた。


「遊びに行くんなら、待っている間に何か食べておくといいよ。ちょうど作っているところだから、中にお上がりなさいな」

 おばさんが親切に提案すると、男の子は嬉しそうに笑った。

「ご、ごめんなさい! ありがとうございます」

「いいのよ、これから出掛けるんでしょ? 力を付けていかないとね」

 男の子を居間へと案内するおばさんに背を向け、俺は支度をすべく部屋へと向かって行ったのであった。

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