「19」妻と娘

 椅子にちょこんと座った娘は、俺が買って来たハンバーガーを口に運んでモグモグと食べていた。

 お腹が減って機嫌が悪かったものあるらしい。

 娘は夢中でハンバーガーに齧り付いていた。


「アイス、食べたい」

 フードコートのアイス屋さんが目に入ったらしく、そちらを指差した。

「あ、あぁ……」

 俺は頷くとアイスを買いに席を立った。


 目を離さないように、チラチラと娘の方を見る。

 娘は脇目も触れず、モグモグ口を動かしていた。


「ご注文、承ります」

「あ、えっと……」

 買いに来たものの、どれを持っていけば良いか考えていなかった。

「ストロベリー、チョコチップ、ミント……」

 適当に注文をする。


 色々な味が乗ったアイスを席へと持って帰ると、娘に渡した。

「ほらよ」

「わぁーい!」

 娘は嬉しそうに俺からアイスを受け取ると、今度はそちらに口をつけ始めた。


「何をしてるんだ、いったい……」

 嬉しそうな娘を前に、俺は頭を抱えたものである。

 小さい子どもを持つ親になったのはこれが初めてだ。未来の娘と会話はしてきたが、今はまったく何を考えているか分からない。


──テンッ、テレレッ、テンッ!


「……あ?」

 突如、懐の携帯電話が鳴り、俺は思わず身構えてしまう。嫌な音であった。

 この音は、どうやら俺の心のトラウマになっているようであった。体が強張り、顔が引き攣ってしまう。

「お父さん、電話?」

 娘がペロペロとアイスを舐めながら、電話に出ない俺を見て首を傾げている。


──娘は目の前に居るんだ。嫌な連絡ではないだろう。


 俺は電話を操作すると、それを耳に当てた。

「何だ?」


『あら……』

 電話口から聞こえてきた声は、女性のものであった。

『どうしたんですか、太蔵さん。随分と不機嫌なんですね?』


──太蔵?


 聞こえてきた女性の声に心当たりがあり、俺はハッとなった。電話を耳から離し、改めて画面を見る。


 そこには──『通話中・妻』の文字が表示されていた。

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