第59話・深淵からの挑戦・宇宙の技術vs神のテクノロジー
──シーン
深淵なる宇宙は、沈黙に包まれている。
地球を楕円軌道で周回している未知の存在、『ブラックナイト衛星』から射出した『月の槍』は、時速100kmで地球に向けて飛来する。
その目的座標はアマノムラクモ直上、未知の存在は、アマノムラクモに対して敵性行動を開始したのである。
──ピッピッピッ
「こちらインターセプト1、各チームに連絡。割り当てられた月の槍をフォースフィールドで固定、そのまま軌道を変更して外宇宙に放出。俺たちの鹵獲分だけは、衛星軌道上にて解析を開始する」
『『『『『『『了解』』』』』』』
リーダーである夏侯惇の通信により、夏侯淵、夏侯廉、夏侯恩、陳宮、蔡瑁、王悦、徐栄らインターセプト部隊がツーマンセルで月の槍へ向かう。
「座標軸到達、展開開始……いくぞ‼︎」
夏侯惇の叫びと同時に、マーギア・リッターは二機一組で月の槍の正面に向かうと、フォースフィールドを網のように展開。
以前、フランスの海洋観測船プルクワ・パを捉えた時のように、侵攻してくる月の槍の先端を包み込むようにすると、背部魔導スラスター及び増加ブースターをフルバースト‼︎
──ドッゴォォォォォォン
宇宙空間なので、音は響かない。
真っ青に光る魔力塵が吹き出し、月の槍の速度を落とす。
「いけるか‼︎」
『『『『『『『死亡フラグ‼︎』』』』』』』
夏侯惇が言ってはいけないセリフを叫ぶのと、月の槍の先端が無数に裂け、鱗状の金属を左右のマーギア・リッターへ向けて射出する。
──ガギガギガギガギィイン
宇宙空間なので、音は響かない。
大量の鱗状金属がフォースフィールドに突き刺さる。
だが、その程度では貫くことなど不可能と思っていた夏侯惇だが、モニターに映し出されたデータを見て、急ぎ回避行動に切り替えた。
「フォースフィールドを切り離せ、奴らは『魔力を喰らう』ぞ‼︎」
すぐさま他の機体もフォースフィールドを解除。
そのタイミングで月の槍は、第二波の鱗状金属攻撃を開始。
先程とは違い、今回は細いドリル状。
それがマーギア・リッターの装甲に直撃するが、その厚さと硬度故に刺さることはない。
──チュィィィィィィン
宇宙空間なので、音は響かない。
ドリル状の金属はマーギア・リッターの装甲に命中すると、そこで慣性をコントロール。
弾かれずに装甲手前で静止すると、高速回転を開始。そして装甲に再度、突き刺さるべく圧力を掛けてくる。
「こ、このサイズで重力制御するだと? その程度の攻撃が、このマーギア・リッターに通用するとでも思っているのか‼︎」
『死亡フラグやめろぉぉぉ』
夏侯惇の勝ち誇った叫びと、その他のサーバントの悲痛な悲鳴がコクピットに響く。
両手からフォースフィールドを網目に展開し、飛んでくる金属片を次々と薙ぎ飛ばしている他の機体とは違い、夏侯惇は正面から堂々と受け止めていたのである。
──キュィィィィィィン
超硬質な音が響く。
まあ、宇宙なので周囲には響かないが、夏侯惇の乗るインターセプト1のコクピットには響いているように|感じている(・・・・・)。
インターセプターの表面装甲はミスリルとオリハルコンの複合材。地球的技術では傷一つつけることはできない。
その表面を、謎の金属片はゆっくりと、着実に侵食していく。
「ここだぁぁぁぁ、マーギア・コレダァァァァ‼︎」
──ズバァァァァァン
インターセプター1の表面装甲に、電磁界が発生する。
すると、それまではガリガリと装甲を削りまくっていた謎金属が突然帯電し、フワッと浮かび上がる。
高速回転も停止し、まるで電磁波によって精密機器が吹き飛ばされたかの如く沈黙した。
「各機に通達。月の槍に取り付き、マーギア・コレダーを叩き込め‼︎」
『『『『『『『マーギア・コレダー?』』』』』』』
そんな必殺技はない。
ただ、夏侯惇が格好いいから名付けただけであり、『魔導式磁界発生装置』を起動しただけである。
「……磁界発生装置だ‼︎ それぐらい気づけ」
『無茶言うなよ』
『ちゃんと説明しろよ』
『そんなんだから、反乱されるんだよ』
『それだから、謀反を起こされるんだよ』
『だから捕まるんだよ』
『それだから、槍で刺し殺されるんだよ』
『誰だ、何気に俺をディスる奴は』
『『『『『『夏侯惇だな』』』』』』
「うるせぇ、とっとと仕事しろ‼︎」
すぐさま最初のフォーメーションで月の槍に取り付くと、各機は一斉に磁界発生装置を起動する!
──バリバリバリバリ
月の槍の表面装甲にプラズマが走る。
インターセプター1により魔導式磁気リコネクションが発生し、月の槍が青白く光る。
その直後、それまでは手応えがあった月の槍の表面装甲材が緩く柔らかくなった。
「観測開始‼︎ インターセプター4と5は観測を、残りの機体はフォースフィールドを展開して捕縛しろ‼︎」
速やかに二機一組でフォースフィールドの網を発生すると、今度は先程とは違い捕縛に成功する。
反応もなく、やや柔らかくなった生体金属は、何も反応できなくなっている。
「全機、逆ブーストで月の槍を停止させろ。そののち、太陽に向かってぶん投げてしまえ‼︎」
──ガッゴォォォォォン
音は響くことはない。
各機とも月の槍を力任せに掴むと、ブースター出力を上げて、太陽目掛けて押し出す。
あとは慣性に任せてまっすぐ飛んでくれればよし、最悪でも、ここに戻ってこなければいい。
そして捕獲した月の槍一機をフォースフィールドで包み込むと、ゆっくりと大気圏に向かって降下を開始した。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
国際宇宙ステーションでは。
今のマーギア・リッターの戦闘行為を視認することはできない。
だが、観測衛星を通して、今の映像は送られてきていた。
同時にNASAやJAXAでも、今の戦いはしっかりとモニタリングされている。
「出鱈目かよ‼︎ なんだよ、あのロボットは。あれがアマノムラクモの技術なのかよ」
「こうしてみると、各国が喉から手が出るほど欲しがるわけだよ。宇宙開発どころか、他星系まで旅ができるんじゃないのか?」
「全くだ。中国と日本の亡命者は、上手いことやったよなぁ」
モニターを見たアストロノーツたちは、苦笑を交えながらも話し合っている。
そして窓の外では、国際宇宙ステーションの真下でマーギア・リッター・サテライト3が月の観測を続けている。
「……欲しいよなぁ、あれ」
「ああ、男のロマンだよなぁ」
ボソッと呟く乗組員たちだか、ふと気がつく。
マーギア・リッターが、ゆっくりと国際宇宙ステーションに近寄ってくることに。
………
……
…
「は、早く……ねぇ南華仙人、他のパイロットって、こう言う時はどうしていたの?」
「パイロットスーツに、それ用のアダプターをセットして使用していました」
「そ、そのアダプターは……」
「……てへ」
「テヘじゃないわよ、緊急事態、急いで国際宇宙ステーションに接続して‼︎」
『了解です。背部接続システムを同調……慣性制御開始……ドッキング‼︎』
──ガシュゥゥゥゥ
サテライト3の背部にある観測システム。その一部は緊急事態用の外部接続ユニットになっている。
そこを国際宇宙ステーションに接続してエアロックを解除すると、目の前ではアストロノーツたちが身構えている。
いきなりの強制接続、そして侵入行為に、一同緊張感が走ったのだが。
「ご、ごめんなさい……トイレを貸して!」
そこから先は、慣れたものである。
|王佳丽(ワン・ジャリー)は、呆気に取られているアストロノーツの横をくぐり抜け、トイレに向かって飛んで行った。
「……マーギア・リッターって、トイレはないのかよ」
「それよりも、あのウェットスーツみたいな服が、パイロットスーツなのか?」
「待て待て、それよりも問題は、勝手に接続してきたことじゃないのか?」
「NASAから入電だ。トイレぐらい貸してやれって」
──ドッ!!!!
ようやく緊張感が解れたのか、全員が爆笑する。
それと同時に、サテライト3のコクピットから王専属サーバントの南華仙人が姿を表した。
眉目秀麗な壮年のサーバント。
それが、バスケット片手に姿を表したのである。
「誠に申し訳ない。私が携帯用トイレを失念していました。これ、よろしかったらどうぞ、宇宙ステーション内部での生鮮野菜が禁止なら申し訳ありませんが」
──パカッ
申し訳なさそうに開いたバスケット。
その中には、南華仙人手作りのサンドイッチがびっしりと詰まっていた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「……死んだ生体金属だな」
アマノムラクモ内、隔離区画。
インターセプト1が回収した月の槍を前に、ミサキは簡単な感想を呟く。
|解析(アナライズ)を使ってみても、すでに『生体金属』としか表示されない。
「マイロード。こちらは柔らかくなっていますが、これが死んだ状態なのでしょうか?」
「正確には、『内包プログラムが死んだ生体金属』ってところ。ようやく、こいつらの生態が見えてきたんだよ」
此処からは、現在までの解析結果。
生体金属は、細かいナノマシンの集合体とプログラム、そして細胞のような金属によって構成されている。
この細胞のような金属『細胞金属』にナノマシンが細胞核のように組み込まれており、プログラムによって様々な変化を見せている。
そのプログラムに対する命令は、月から送られてくる脳波のような命令伝達システムであり、同時に小さいながらも自立思考を兼ね備えている。
これにより、鱗状に変形して飛ぶことも、魔力波長を無力化することも可能。
加えて、アマノムラクモの魔導攻撃を吸収し、自己進化を行うための解析まで始めていたのである。
「……電磁波で活動不能になったのは、そう言うことですか?」
「まあね。ただし、地球でこいつらのプログラムを破壊しようとするなら、かなり強力な電磁波を必要とするからね」
『ピッ……1.21ジゴワットですか? それとも400ジゴワット?』
「時間を超える気も、粒子ビームを撃つ気もないからな。そもそも、時間なんて超えられるはずが無いだろう?」
『…………』
『ピッ……』
「沈黙するなよ、期待するから。とまあ、そんな感じで、こいつらを無力化する方法はわかった。ついでにいうと、死んだ生体金属は鉛よりも柔らかくてよく曲がり、超合金よりも硬い……ってわかるか?」
『ピッ……グニャグニャ曲がるゼェェェットですか?』
今日はツッコミどころ満載。
だが、それが一番わかりやすい。
「オクタ・ワン、そんな感じだよ。だから、地球のテクノロジーでどうこうできる代物では無いし、回収されたからと言って、加工できるものでも無い」
「各国からも、回収した月の槍を買い取りたいという連絡が来ていますからね。どうするのですか?」
「売っても構わない。アドルフの遺産と同じだよ、それを持っているっていうステータスの意味合いの方が、大きいからね」
グアムに係留されている第三帝国の飛行船についても、未だに保留状態が続いている。
まあ、そっちは今はどうでもいい。
今は、月から射出された月の槍の対策で国連も忙しそうであるから。
「こりゃあ、本格的に月の調査もしたほうがいいよなぁ。宇宙法準拠してねーから、好き勝手できるといえばできるんだけど、やったらやったで中国が煩いよなぁ」
そう呟いてから、俺は月の槍に手を当てる。
解析は終わった、それなら分解も再構成も可能。
──シュゥゥゥゥ
月の槍の形がゆっくりと変化する。
そして一本20kgのインゴットに姿を変える。
その数、ざっと20000本。
「これを電磁波シールドしている部屋に保管しておいて。ここからは各国との交渉だ」
他国の反応が楽しみである。
『ピッ……NASAから入電。トイレの使用料についての交渉をしたいとかで』
「月の槍のインゴットで支払うって伝えてくれ!」
『ピッ……了解です。NASAは使用料として新鮮な食事を希望しているそうです』
「あ〜もう。ヒルデガルド、生産野菜を積んでマーギア・リッターを一機飛ばしてくれ」
「イエスマイロード。輸送用キャリアーを装備させます。パイロットはどなたが?」
「王さんでいいよ。自分の尻ぐらい拭かせてやれ」
『ピッ……トイレだけに?』
やかましいわ‼︎
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