第4話・乗組員も作ってみよう
朝。
快適な目覚め。
早朝のシャワーは格別だが、朝一番で、ゆっくりと温泉につかれる幸福もまた、格別なものである。
「ふぁぁぁぁぁ。人間、ダメになるわ。そろそろ現実を見るか」
風呂上がりは、腰に手を当てて缶コーヒーを一気飲み。俺は、乳糖不耐性なので、乳製品は極力排除である。
そして、いつのまにか用意されていた黒色キャプテンスーツの袖に手を通すと、あら不思議。
「……俺、どこの宇宙女海賊だよ?」
『ピッ……この世界の文化を調査した結果、現在の状況に相応しい装備を整えました』
「やっぱり現実かよ。オクタ・ワン、ありがとさんよ。それで、外の様子はどうなっているんだ?」
艦内を移動しながら問いかける。
本当なら朝食をゆっくりと摂りたいところだけど、どうも外の様子が気になって仕方がない。
『ピッ……アマノムラクモを中心に、世界各国の戦艦や護衛艦が待機しています。ブリッジへお急ぎください』
「マジかよ。なんでそんなことになっているんだか」
昨日はアメリカの奇襲攻撃。
そして今日は、世界中の軍船の包囲網。
こっちは空を飛んでいるから逃げる分には問題はないのだが、今、日本の領海から外に出たら、一斉に攻撃を仕掛けてくるのは明白である。
そんなこんなと思案を巡らせつつ、ブリッジのキャプテンシートに座る。
「……やっぱりゴーレムかホムンクルスの乗組員を作るか。俺でも作れるのかなぁ」
『ピッ……キャプテン・ミサキの錬金術なら可能です。もしも作成するのであれば、魔導特化ゴーレムか、戦闘用ホムンクルスをお勧めします』
「なんで?」
『緊急時に、キャプテンを守るためです』
「あ〜、そう言うことか。さて、その件は後回しで、外の音声もしくは通信を拾えるか?」
『可能です』
「まずは日本のやつを頼む。割り込むわ」
すぐさまオクタ・ワンは日本の防衛通信網をキャッチ、そこに割り込むことに成功した。
「テステス……こちら機動戦艦アマノムラクモ。日本国政府に伝えます。我が艦は戦闘の意思はない。放っておいてくれたら、数日中に日本国領内を立ちさる」
『こちら日本国防衛省。貴艦の目的はなんですか? 日本語を流暢に使うところから、貴君は日本人と推察するが如何に?』
「こちらの目的はまだない。航行中の手違いで、こんなところに実体化しただけにすぎない。私が日本語を使えるのは、なにも日本語だけではなく、この世界の全ての言葉を理解し使えるからだ」
さぁ、どう出る?
少なくとも、俺は嘘は話していないはず。
目が覚めたら機動戦艦の中だし、これからどうするかなんて考えたこともないから。
『我が国より西方にある中国が、貴君の機動戦艦は中国国籍だと宣言しているが?』
「嘘だな。我々は、他国の所属艦となった記憶はない。もしも今後、我が機動戦艦を入手すべく戦闘行為を行なった場合、問答無用で攻撃を開始する。手を出さない限りは、我々は何もしない、以上だ。このことを、他国にも情報共有するように」
『了解した。日本政府との相談ののち、日本の方針を後ほど伝える。通信回線はこのチャンネルを使って構わない』
「お気遣い、感謝する」
これで話はおしまい。
さて、他国がどう動くのか、特に中国。
これは俺の戦艦であって、あんたらのものじゃない。勝手に所有権を宣言するなと。
「さて、あとは監視を続けてくださいな。万が一、他国が攻撃を開始したら、人的被害が出ないレベルでの反撃を……脅しでね、ガチでやらないでね?」
『こちらトラス・ワン。キャプテンの命令を受諾しました』
「よろしく。それじゃあ、飯食ってから何処か広いところで錬金術やってみるわ」
そんなこんなで、昨日に引き続き、艦内食堂で朝食を堪能する。
今朝は焼き鮭定食卵付き。
ご飯は五穀米、味噌汁はワカメと豆腐。
この黄金パターンとも言える贅沢さ。
本当に、まともに朝食を食べるのは何年振りだろう。
いつも朝はグラノーラか、コンビニのアンパンと缶コーヒー。
少しでも体の疲労を取るために、睡眠時間を確保したかったんだよ。
「……ふぅ。堪能したわ。まさか死んで生き返ったことで、社畜人生から救われるとはなぁ。でも、人気がないのは、やっぱり寂しいよなぁ」
だだっ広い食堂でも、俺一人だと悲しすぎる。
食べ終わった後の食器はトレーごと指定の場所に置いておくと、あとは全自動で回収して洗われる。
実に無駄のないことで、俺は悲しいよ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「なぜだ、なぜ、あの機動戦艦は我々とは無関係だと堂々と宣言した! これでは、あの戦艦を他国に有無を言わせず手に入れることができないではないか」
昨日、アメリカが日米安保条約に基づく攻撃を開始したとき、
なぜ? 貴国は我が国所属艦を攻撃するのか、と。
それに対するアメリカの返答はただ一つ。
あの未確認飛行物体が中国籍であると言う証拠はない。ただそれだけを返してきた。
外交筋からの抗議は続けられていたのだが、一向に攻撃を止める雰囲気はなかった。
だが、アメリカが爆撃を開始し、さらに海兵隊による突入作戦を始めたときは、
だが、その直後、アメリカの作戦行動が不発に終わり、飛行物体が無傷だったという報告を受けたときは、心が狂喜乱舞したほどである。
あれが欲しい。
あの強さがあれば、我が国、中国は世界を統べることができる。
ならば、どうやって入手するべきか。
国連を通じて、平和維持活動の一環であることを宣言し、日本政府に3隻の艦船の侵入を受け入れるよう宣言した。
だが、それはロシアやアメリカ、はてはオーストラリアに至るまで、すべての周辺先進国が同じように、あの飛行物体を手に入れるべく各国とも3隻という制限で日本国領海内への侵入を許可を得ていた。
「
「なんだ、読み上げろ‼︎」
「はっ……」
そこから先の、日本国政府からの通達は想像を超えていた。
すでに日本国政府は、あの機動戦艦とか言う存在の責任者と話をしていたらしい。
そこで、機動戦艦は中国とは無関係であること、現状の目的はないが、手出しをしなければ、あの戦艦からの攻撃はないことを説明してくれた。
「……監視を続けろ。私は国連に連絡する。安全保障理事会を開催し、あの機動戦艦の処遇について決定すると……必要ならば、我が国は軍を派遣することも構わない」
「了解です。日本海で待機している軍艦にも、引き続き監視を強化するように伝えます」
畜生。
獲物は目と鼻の先にあるのに、どうして手が届かないんだ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「……こんな感じか?」
錬金術を試してみた。
まず、錬金術とはなにかというところから踏み込んでみたいところだったけど、有り体に言えば、『魔法でなんでもなんとかする』が、一番わかりやすい説明だと思う。
錬金術の基本は『分解』『抽出』『融合』の三つに分けられ、ここに『変形』『拡大』『縮小』『接合』『魔導化』の五つの術式処置がら加わって、錬金術は成立する。
最初の三つが素材や原料を作り出す、さらに後の五つにより、そのもの自体の理を変質させるといった方がいいのか? さらに難しいのか? そんな感じで仕上げるものらしい。
あとは、完成したものを増産するための『量産化』と、根幹物質の元素を作り替える『元素変換』の二つの術式がある。
まあ、頭で考えても仕方ないので、まずは適当なところから始めることにした。
まずは、簡単なところでゴーレムから。
一番簡単な、ゴーレムの作り方は手順がお粗末すぎる。
1.素材を変形させて、人形にする
2.心臓部にあたる『魔導核』を作る。
3.魔導核を人形に組み込み、魔導化の処置を施して起動する。
ほら、簡単。
この中でも、最も面倒くさいのが、魔導化。
高純度魔晶石っていう透き通った石に、術式を刻み込むのだけれど、この術式が曲者で。
簡単な動作なら、掴む、持ち上げる、といった命令文を組み込むだけなんだけどさ、俺が作りたいのは自立思考するゴーレム。
つまり、人間の脳に当たる部分を術式により組み込むことになった。
「はぁ……俺って天才? 違えな、この体になってから、妙に魔法関係の作業が当たり前のようになっているんだよなぁ……」
そう。
転生ボーナスで得たスキルや加護、これが今の俺の体を大きく変質させているんだよ。
脳内リミッターが生活レベルでの支障がないように、自動で制御してくれているらしいんだけどさ、そのリミッターを外すと、俺は超人的能力になるらしい
それは、この術式付与作業にも影響しているらしく、ほんの数時間で、ゴーレム用魔導核は完成したんだよ。
「……さて、ゴーレムの素材は、何を使うかな?」
『ピッ。キャプテンの輝かしい未来、はじめてのゴーレムです。ということで、アマノムラクモの外装素材をご用意しました』
ふと気がつくと、無限軌道のついた台車が、オリハルコン素材を運んできてくれたよ。
こいつを加工すればいいんだよな?
「さて、いきますか。
少しずつ、ゆっくりと人型に姿を変える。
細部の調整、彫刻などを繰り返し、一時間後には人型が完成した。
「この心臓部分に、魔導核を組み込んで……もう一度
──キィィィィィン
すると、魔導化した鎧騎士が光り輝き、やがてゆっくりと立ち上がった。
「はろう。私はミサキ、君のご主人になる。私の命令は絶対、いいね?」
──ガシャン‼︎
俺の言葉が理解できたのか、鎧騎士は立ち膝でしゃがみ込むと、胸に手を当てて一礼した。
「イエス、マイマスター。私にお名前を」
「はじめての騎士。女性型だから……ブリュンヒルデ、君はブリュンヒルデと名乗りなさい」
「イエス、マイマスター。私はブリュンヒルデです。私は何をしたら良いのですか?」
さて、とりあえずは、あと六体を作ってもらいますか。
いや、ちょい待ち、魔導核をもう一度作って、先に
「では、私は魔導核を作るので、ブリュンヒルデ……愛称はヒルデ、にしよう。ヒルデは、君の姉妹の体を造形してくれるか?」
「イエス、マイマスター。私は、姉妹を作ります」
「そのマイマスターは禁止。ミサキと呼んでくれ」
「ミサキ様、で構いませんか?」
「う〜ん。まあ、いっか。では、私のことはミサキかミサキ様、ミサキさん、このどれかで」
「はい、ミサキ様。では早速、作らせていただきます」
このあとは、実に作業が早かったよ。
昼食を食べてからは、魔導核の
これを一つずつ、ヒルデの使った素体に組み込み魔導化を施す。
「これで、最後だ……目覚めよ、末っ子のロスヴァイセよ」
──キィィィィィン
最後のゴーレムに魔導化処置を施す。
これで、合計9名のゴーレム部隊『ワルキューレ』が完成した。
ブリュンヒルデから始まって、ゲルヒルデ 、オルトリンデ、ヴァルトラウテ、シュヴェルトライテ、ヘルムヴィーゲ、ジークルーネ、グリムゲルデ、ロスヴァイセと、合計で9人のゴーレムを作りましたよ!予定よりも二人追加しましたわ。
夕方六時には、このワルキューレをオクタ・ワンとトラス・ワンに登録。
細かい教育はオクタ・ワンに任せて、俺はのんびりと温泉に浸かるとしよう。
いやぁ、今日もよく働いたよ。
明日こそは、この悪夢をどうにかしたいものだよ。
『ピッ……悪夢を解消する方法があります』
「マジ? それって何?」
『ピッ……国としての独立宣言です。国際法に照らし合わせた上で、一般航路、航空航路に触れない場所に機動戦艦アマノムラクモを島とした、国家を樹立するのです』
は、はぁ? そんなことできるの?
でもさ、そういうのって条件が厳しいよね?
『ピッ……国家として独立する場合…いくつかの条件があります。【永続的住民の存在】【明確な領域の設置】【国家としての政府】【他国と関係を取り結ぶ能力】この4つです。まずは、公海上に移動し、独立宣言を行うとよろしいかと』
さらに詳しく聞いてみたらさ、国家となった場合、領海を手に入れることができるのよ。
「領海は12浬だから、22.2kmか。まあまあ、悪くはないけどさ、なんで、俺が国を作るところまで話が発展しているの?」
『ピッ……キャプテンの平和のためです。ご一考ください』
はいはい。
温泉に浸かって、少し考えますよーだ。
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