第49話 皆で楽しく特訓です

 そしてブルーノは山を降り、次の日からアンナと剣を激しくぶつけ合った。


「相手の剣先から目をそらすな! あと目線と足元もな! 可能なら全身の筋肉の動きも捕えろ! ただし、それを逆手にとられてフェイントを入れられることもあるぞ!」


「し、師匠、そんな一度に言われても」


「甘ったれるな!」


 朝食後の家の前に、カンカンカンと金属音が響き渡る。

 それを聞いていると、ローラも混ざりたくなってしまう。

 だが、三人で戦うと乱戦になり、稽古どころではなくなる。

 よってローラは友達のため、涙を呑んで見学に徹した。


「ローラさん。ただ見ているだけでは退屈でしょう? わたくしと手合わせしませんか?」


 庭に座って稽古を見つめていると、シャーロットが隣にやって来た。

 見れば、首から趣味の悪い骸骨のペンダントをぶら下げていた。

 魔力負荷をかける『封魔のペンダント』だ。

 装着しているだけで魔力トレーニングになるという便利なものであるが、何も朝からつけなくてもいいのに、とローラは思う。


「手合わせって、こんな所で魔法合戦ですか? 私とシャーロットさんがやると、家がなくなっちゃいますよぅ」


「ふっふっふ。魔法は使いますが……剣ですわ!」


 そう言ってシャーロットは、右手から光の剣を伸ばした。


「おお!? 魔力で作った剣ですか! 凄いです、真似します!」


 見よう見まねでやってみると、ローラの右手からも光の剣がブンと唸りを上げて伸びた。


「か、格好いい!」


「わたくしが三日かけて練習した技ですのに……まあいいですわ。ローラさんはそういう生き物だと知っていますから。さあ、これで打ち合いましょう!」


「いいですけど……魔力で作った剣でも、剣は剣ですよ。シャーロットさん、剣の心得は?」


「ないですわ。なのでローラさんと戦いながら覚えます」


「ほほう。ちなみにシャーロットさん、剣の適性値はおいくらで?」


「75ですわ」


 シャーロットは澄まし顔で言う。


「意外と高い! 魔法一筋みたいなイメージだったのに……戦士学科でも十分やっていけるじゃないですか」


「できる女は何をやってもできるのですわ。さあ、ローラさん。あなたの剣技を盗ませて頂きますわ」


「そう簡単に盗めるものじゃないですよ! 盗めるものなら盗んでください!」


 ローラは光の剣を構え、シャーロットへと斬りかかった。


「え、そんな、いきなり本気ですの!?」


「こんなの、本気にはほど遠いですよ。ほらほら!」


「うぐっ、ローラさんがサディスティックな目になっていますわ」


 シャーロットは強化魔法で身体能力を限界まで高める。

 対してローラは素の筋力だけで剣を振っている。

 だがシャーロットは防戦一方だった。

 ローラの手加減しまくった剣を防ぐだけで精一杯。

 当たり前の話だ。

 ローラは伊達に三歳のときから剣を振り回していない。


「たまりませんわ。一度退避ですわ!」


「あ、シャーロットさん、剣の勝負で空中に逃げるなんて卑怯ですよ!」


 飛行魔法で飛び立ったシャーロットを追いかけ、ローラもまた空を飛ぶ。

 ぎゅーんぎゅーんと風を切り裂いて宙を舞い、すれ違いざまに剣をぶつけ合う。

 こんな変則的な戦いでは剣技はあまり役に立たない。


「シャーロットさん、剣の勝負じゃなかったんですか!? これじゃ魔法の戦いですよ!」


「わたくしは『手合わせしませんか』と言っただけですわ!」


「ぐぬぬ……じゃあちょっと本気出しちゃいますよ!」


「では、わたくしも封魔のペンダントを外しますわ!」


 二人は加速し、光の剣をぶつけ合う。

 途中から氷の槍とか、炎の弾なども飛び交い始めた。

 もはやなぜ戦っているのかよく分からなくなってきたが、楽しいので大丈夫だ。


「それにしてもシャーロットさん。決勝戦のあと、魔力がもとに戻ったのに、空は飛べるんですね!」


「魔力が減っても技術はそのままですわ!」


「なるほど! それに魔力もなんか、毎日ちょっとずつ増えてるような気がします」


「一度頂点を垣間見たので……目指すべき場所を知っていれば、上達も早いというものですわ!」


 火力の規模は比べものにならないが、決勝戦のときも、ローラとシャーロットはこうやって空中で魔法を撃ち合っていた。

 あれは確かに心が躍った。

 あの瞬間だけ、シャーロットはローラと同じ領域に立っていたのだ。

 その体験がシャーロットの成長を後押ししているらしい。


 こうして戦っている最中も、シャーロットは少しずつ強くなっていくような気がする。

 そのことが何だか楽しくて、ローラは夢中になって戦った。


 やがて数時間後。


「ちょっと、皆。いつまで戦ってるのよー。もうお昼よ、帰ってきなさーい」


 エプロン姿のドーラが玄関から叫んだ。


「母さん、もうちょっと待ってくれ。アンナちゃんがどんどん成長するから、面白くて」


 地上でブルーノがそんなことを言っていた。

 なので真似してローラも似たようなことを言ってみる。


「私もシャーロットさんの成長が面白いので、もうちょっと戦いたいです」


 適当な理由を付けて、地上組も空中組も戦闘を続行しようとしている。

 しかし、それを聞いたドーラから、シュワシュワと魔力が立ち上った。


「ああ、そう。せっかくいつもより気合いを入れた特製オムレツを作ったのに。いらないんだ。じゃあ私が全部食べちゃおうっと」


「「「「特製オムレツ!?」」」」


 ローラとシャーロットとブルーノとアンナ、四人が一斉に叫び、玄関に飛び込んで行った。

 特製オムレツを食べたあと、午後は遊びの時間だ。

 湖で泳いだり、釣りをしたり、ハイキングをしたり。

 次の日も午前中は修行をして、午後は遊ぶ。

 そんな楽しい日々は、時間が進むのも早い。

 あっという間に、夏休みは終りに近づいていった。

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