第318話.魔石の強化
カタカタと音を立てる七色の魔石に、思わず身構えてしまう。クオンのコレクションとなっているが、リッチを狂わせたといっても過言ではない魔石で、その惑わすような魅力は危険でしかない。
そして目の前には、力を失ったゴルゴンがいる。
嫌な予感がして、咄嗟にミュラーの盾を召喚してゴルゴンの姿を隠し、マジックソードを構える。
「大丈夫!」
クオンが宝箱に近付くと、ブロッサの横に並び両膝を抱えてしゃがみこむ。
「どうしたいの?」
クオンが七色の魔石に話しかけると、それに応えるようにして赤や青に黄と様々な色を放つ。それをクオンは頷きながら見ているが、一応何らかのコミュニケーションは取れているみたいだ。
「その魔石を使えって言ってるのか?」
中位種を越えた上位種に入るリッチの魔石。いや、正確には言えば上位種のリッチに寄生し惑わせるほどの魔石。それならば、失われたゴルゴンの魔石と比べても質は遜色はないし、大きさも申し分ないだろう。
ただ、ブロッサが適正があると判断したのはラミアの魔石だけになる。
すると、七色の魔石は抗議するように激しく輝く。
「ブロッサ、この魔石は使えないんだよな?」
「ダメよ。あまりにも内包された魔力が、禍々し過ぎルワ。リッチのように暴走してしまうかもしナイ」
「クオン、何をしようとしてるんだ?」
俺も宝箱の方へと近付くと、七色の魔石は大きく震え出し、宝箱の隅へと隠れるように逃げ出す。しかし、目立つ七色の光を隠せるわけもなく、その行動は意味をなさしていない。知性のある魔石の行動とは思えないが、俺の持つマジックソードは魔石を砕く能力があることを理解しているのかもしれない。
「早くするの!」
クオンが宝箱に手を差し出すと、七色の魔石はクオンに助けを求めるかのようにして勢いよく飛び出し。差し出された右の手の平の上に載る。
「ゴブリンとハーピーの魔石を使って、ラミアの魔石の質を強くするの」
「そんなことが出来ルノ?」
「どんな理屈で?」
それにはブロッサは驚き、ガーラは好奇心を示す。
魔石の質を変えるということは、魔物を進化させることと同じ意味を持つ。それは驚くべきことで、極端に言えば、ゴブリンの魔石を大量に集めればロードやキングをつくれるということになる。
オークロードやキングの魔石を求めて戦いに挑み散っていった者は多いが、そんなことをしなくてもロードやキングの魔石を手に入れることが出来る。それは、この世界にとって破格のスキルと言って良い。
『リッチもそうやってつくられたのかしら』
クオンが頷くのに合わせて、七色の魔石の輝きも大きくなる。
『時間がないわ。それなら、早くやりましょう』
「うんっ。リオッ、失敗は許さない!」
クオンの言葉に、七色の魔石が1度だけ大きく輝くが、そこには少しだけ恐怖の感情の声が混ざっていたような気がする。
「えっ···リッ」
クオンが魔石のことを“リオ”と読んだ気がする。七色の魔石に名前を付けていのかもしれないが、ここで俺が名前を口に出してしまうと···。
『カショウ、ダメよ!分かってるわね』
それはムーアも一緒のようで、迂闊に口に出してしまうと、魔石に名付けし契約するという前代未聞の事態が発生してしまうかもしれない。
迂闊に言葉を発することすら躊躇われて、出かかった言葉を堪えて頷いてみせると、納得したムーアも頷き返してくる。
ゴルゴンの残された時間は少ないが、数瞬の間を空ける。そして、発する言葉を幾度か頭の中で反芻し、それに問題がないかを確認する。
「クオン、それってクオンが付けたのか?」
「うんっ、可愛い名前でしょ♪クオンも上手なの♪」
少し得意気な顔をして、クオンがゴブリンキングの王冠には向かって指示を出し始める。もしかして、ゴブリンキングの王冠にも名前が付いているのかもしれない。でも、今そこには触れてはいけない。
気付けば、山積みとなっていたゴブリンやハーピーの魔石が再び浮かび上がっている。同じ種族の魔石でも僅かではあるが個体差があり、軽やかに浮かび上がっているものもあれば、下に漂うようにして辛うじて浮かんでいるものもある。その中でも上に浮かんでいる魔石が、クオンの前へと集まり始める。
「これでイイ?」
クオンの問いに、七色の魔石は大きく輝いて応える。そして、クオンはその選別された魔石の中に、ラミアの魔石を投げ入れる。
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