第271話.古の言葉の力
「旦那様、それはなりません」
エルフ族が精霊樹を崇めているならば、ここで行われていたことは、精霊を道具として利用した全くの逆の事になる。直接関係していなかったとしても、ハーフリング族の暴走を知っていた可能性は高く、責任を逃れる事は出来ない。
「ああ、分かっているつもりだ」
「それでも、旦那様は優しすぎます」
オークを利用し続けた責任、それは俺が取ることがあってはならない。コアが俺に告げる言葉は厳しく重い。種族毎に国や領地があり、そこに異世界から迷い込んできたばかりの俺が口を出したり、でしゃばったりしてはいけない領域がある。ただ、コアはエルフ族族長としての責任を感じている。
「でもコア、夫婦の契りはどうなる。俺の暴走をコアが共有するならば、俺にもコアの責任を共有する必要があるんじゃないか」
「だから、旦那様にお願いがあります。古の滅びた記憶の力をお貸しください」
『ふうん、それは悪くはないかもね♪』
ムーアの何かを思い付いた言葉と、したり顔に嫌な予感がする。
「ムーア、何を思い付いたんだ」
『あら、考えたのはコアも一緒よ。そうよね』
ムーアの言葉に、コアもコクりと頷く。
「それで何をするつもりなんだ?」
「古の滅びた記憶があれば、オーク達の声が聞けます。そうすれば、共存できる道が見つかるかもしれません」
「共存?」
あまりにも無謀な考え驚きが隠せず、思わず声が漏れてしまう。コアがオークに対して何かしようとしているのは想像出来たが、これまでのように住み分けするのが妥当なところだと思っていた。そんな事が出来るのかと思わずムーアを見てしまうが、ムーアは俺の視線が来ることを待ち構えていた。
『古の滅びた記憶は、言葉の力よ。そして、あなたはオークの声が聞こえるのよ』
「声を聞いて、どうするんだ?これまで積み重ねてきた負の歴史を、言葉が分かるからって簡単に解決なんて出来ないだろ。それに、魔物との契約は危険なんじゃなかったのか?」
『ハーピーロードと契約して制御してるのだから、実績は十分でしょ』
「旦那様、従う者達だけで良いのでお助け下さい」
「コアもムーアも、本気で言ってるのか?」
『ええ、本気よ。カショウ、廃鉱のラミアの事を覚えている』
それはクオカの廃鉱で、元領主であるオルキャンを狂わせた魔物。魔物であるがアシスの言葉を操り、瞳の魔力は全ての者を魅了してしまう。
「ああ、覚えている。でも、それが今関係あるのか?」
『あれは、ラミアがオルキャンを操っていたのよ。それにライとラミアが繋がっている可能性だってある。魔物とドワーフ、魔物と精霊が繋がっている可能性もある。何でもありの相手よ!』
「だからって、それが俺もオーク達と繋がりを持つ理由になるのか?」
『違うわ。これは、カショウじゃないとダメな事なの。古の滅びた記憶の力の1つは、言葉の持つ力よ。アシスの理には無いはずの言葉。いえ、アシスの理に弾かれても尚存在する言葉』
「アシスに弾かれた存在。その言い方は汚いな」
『あなただからこそ、聞こえたり見えるものがあるかもしれない』
「旦那様は、ヒトでもあり精霊でもあり魔物でもあります。だからこそ、全ての道を開くことが出来るかもしれません」
また、無理難題だなと感じる。精霊を探すだけでも苦労しているのに、魔物までとなると想像も出来ない。
『難しく考える必要はないわ。ゴブリンロードとオークロードに聞いてみればイイだけよ』
「それは名付けをしろって言ってるのか?」
『残念だけど、魔物の声を聞けるのはカショウだけなのよ。私には感情の声が聞こえても、声を届けることは出来ないのよ』
「でも、どうなるかは分からないぞ」
俺の話しかけに、二人のロードはラガートのように応えてくれるとは限らない。ただどんなに小さな声も聞き落とさないようにと集中する。
「「我に名を!」」
「俺は、まだ何も言ってはいない!」
「「我に名を!」」
これは聞こえなかったことにしてもイイような気がする。
『カショウ、という事らしいわよ』
「旦那様、協力的であるみたいですわ」
しかし、ムーアには感情の声が聞こえ、コアは俺と感覚を共有している為、二人ともを誤魔化すことは出来そうにない。
「名を与えれば、何を示す」
「ラガートよりも力を示してみせる!」
「我の方が、遥かに役に立つ」
「名を与える。ゴブリンロードはレン、オークロードはニッチ」
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